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拓巳から連絡がかかってきたときに会えるよう、率先して予定をあけておこうとする。
スーパーで安くなっている食材を目にすると、彼の好きな料理を思い浮かべてしまう。
その髪色が好きだと言われ、明るくしようと思っても、気づけばその色を持続している。
褒められると素直にうれしくて。
拓巳に元気がないと自分まで落ち込んでくる。
気づくと、あの頃と同じ。好きな人の好みになろうとしている。
付き合っているわけではない。身体だけ。彼氏でもないのに。
根本を変えるのは、私には難しいらしい。今更になって気づいたこと。
本気になればなるほど、傷つく可能性が高くなるんだよ、と自分に言い聞かせているのに。
好きになんてなってはだめだと、あれほど言い聞かせてきたのに。
もう猜疑心や嫉妬、つまらない感情に、翻弄されたくないのに。
それでも目が覚めたとき、拓巳が横で眠っていると、安心した。
朝には帰っちゃってるんじゃないかと思いながら眠りにつくから。
どんなに抱き合っても、お互い口には出さない「好き」の一言を、私は心の中で繰り返した。
聞きはしないけど、拓巳だって私のほかに遊んでいる女がいても不思議ではない。
割り切るには、拓巳が思いのほか優しかった。
自分の気持ちに気づいてしまったとき、認めてしまったときにはもうどうにもならなかった。
板挟みになりながら、あともう少しだけ、と欲張りながら心に思いを閉じ込めていた私ももうそろそろ限界だった。
彼は来月には、今の職場から居なくなる。
全く顔を合せなくなるわけではないけど県外だから、今ほど会うこともない。
だから、勝手に苦しくなる前に、これを機に終わりにすればいい。
とても勝手だけど、これ以上好きになる前に終わりにしてしまいたい。
区切りをつけたい。
◇◇◇
湯船浸かり、温まりながら拓巳の肩を揉むと、身体の重みを私に預けてくる。
その重みを感じながら、私はただぼんやりと彼の話に耳を傾けた。
「今月も今週で終わりだよ。早かったね」
居間のソファの上で、タオルを手に髪の水気をふき取りながら、拓巳を見た。
ガシガシと乱雑に頭を拭いている。
「もう会うの、終わりにしよう」
私に視線を注いでくる彼に構わず、言葉をつなぐ。
「今日か、来週で最後にしよう」
「良いやつでも出来たのか?」
今日か来週で、と言ったけど本当はもう今日で終わりにしたい。
我ながら随分と勝手だけど。
拓巳はなんだかんだで、いつも寝たあとに一緒に朝まで居てくれる。
勝手に帰っていったこともなかった。横に眠る彼の温もりを感じながら眠りにつけることは、私にとって安らぎであり幸せなひとときだった。
その幸せに慣れると、また私は求めてしまいそうな気がする。
「……向こうで、良い女の子見つけてよ。近場の」
「別に場所はこだわってないよ。で、好きなやつできたのかよ」
身体だけの女に、時間とお金をかけるのはもったいないよ。
「もう誰も好きになったりしないから大丈夫って言ったでしょ。でもごめん。約束破った。無理だった」
好きになってしまった。身体だけでいいっていったのにね。