蒼天の故郷-1
ことを終えた二人は一緒に風呂に入った。そして、ようやくリディヤの話題に及ぶことができた。
「妹としちゃったんでしょ? 小さい子がおじさんは欲しいんだね? そう聞いたよ。ママのことも別に好きじゃないんだよね。」
「全部あってる。妹を傷つけたことが悲しいし、これ以上傷つけたくない。和解したい。でも体は欲しいんだ。我ながら馬鹿馬鹿しいよ。」
おじさん、あたしの髪洗ってくれるとパウリーナは言いだし、貴道の膝に背を乗せて仰向けになった。貴道は髪の前に、娘のつややかな下の毛を触ってみた。
「そこ、あげる。そこも洗って。」
女の髪をこうして両手で洗うなど、貴道に初めてのことだった。血液が下腹に集まるのを貴道は感じた。乳首が立っているところをみると、娘もまた興奮しているらしい。
「ママは変わらないよ。リディヤはおっとりしてるから、そのうち話できるようになると思う。パンツのことはママから聞いたけど、あの子に見つかったら、男の人に見えるところに置く自分が悪いんだって、あたし言っといてあげるよ。」
貴道は湯で流すと、パウリーナに手を添えて体を起こした。もう一度、パウリーナの脚の間を探る手に、ぬめりが感じられた。
「ちょっと立って。」
そう言った貴道は、立ってみせた中学生の毛に自分の髭剃りを当てた。溝から充分に、泡の代わりを塗りつけた。
「あたしは青空じゃないのかな。」
髭剃りの動くまま脚を開いたパウリーナが聞いた。
「青いけど、朝空とは違うね。」
「こっちの天気は予報じゃ変わらないよ。」
「別の予報。妹も君も僕を憎んで離れ、訴えに出る。」
貴道は少女に片脚を上げさせ、溝の左を引っ張りながら刃を当てた。顔を寄せたら、勢いよく小便が噴き出した。貴道はよけなかった。中学生は片手でこすって貴道の顔中に飛ばした。ああ気持ちいいと指の動きを速めながら、
「おじさん、あたしと付き合ってよ。すぐ子供産んでもいいよ。そうして結婚しよう。そうしたらママとも別れられるよ。」
貴道は少女の出どころを口で塞いだ。少女は勇んで力を増し、貴道は受けて吸い出した。
姉妹が帰ってから、パウリーナは貴道が自分のものだという主張を始めた。強い意志のあるパウリーナは母と争い、母が貴道を責めたと聞けば、電話でもメールでもすぐ母に食ってかかった。妹には貴道の無罪をさんざんに吹き込んだ。
しかし、家族は分裂したかのように見えて、そうならないのだった。むしろ、何の変化すら見えなかった。
人の絆とはただ不可思議なものだと貴道は思った。絶望したりいたずらに希望を持ったりすることが、人間関係において、いかにも無意味に思われてきた。流されれば流されたなりの希望と絶望が、パウリーナや母ナデージダのように、強い意向でことを動かせば動かしたなりの苦悩と喜びが従ってくる。したくとも出来ぬことがあり、願わないのに起こることがある。
貴道の脳裏に、子供の頃、教科書で読んだ「諸行無常」の語が蘇り、離れなくなった。
貴道は南無阿弥陀と唱えてみた。何も変わりはしなかった。リディヤへの行為も改まらないだろう。ナデージダにきっぱり別れを告げることも無理だろう。パウリーナの天気予報はどこまで当たるのだろう。
空を見上げて南無阿弥陀と貴道はしばしば唱えた。澄んだ青空はやはり悲しく恋しかった。紺碧の空間を仏が満たし、大自在の瞑想をしながら自分を待っているように思われた。
貴道は、帰るところが地上に無いだけだと思った。辛いがなんだか有り難い、そんな気分を見上げた青空に感じられてきた。