第13話 導かれた春-1
「そ・・それは、どういう事なのでしょうか!?」
僕が驚くのも無理はなかった。
校長が早い段階で、操を許したのも意外だったが、その相手の家庭教師により、営みの悦びと拒絶を同時に背負う不可解な過去にも驚きを隠せずにいた。
さらに、遠い過去の話とは故、その家庭教師と校長の間には、営みの悦びを共存した事実もあり、すれ違い様の想いで校長と対峙する僕にしてみれば、羨む様な嫉妬心すらこみ上げていた
「この事を語る上で、少し遠回りになりますが、私の生い立ちからお話させて下さい。まず・・・私が生まれたのは、とある財閥の一人娘としてでした。のちに跡継ぎにも関わる事ともなりますので、親族の中でも一目置く存在でもありました。特に、会長でもある祖父に関しては、早いうちに後継者として育成する為に、私の勉学に対しては幼い頃から力を入れてきました。ただ、田舎の財閥なものですから、身近に有能なエスカレーター式の学校などございません。ですから、将来の進学を踏まえた上で、常に身近には家庭教師が居る環境で育てられてきました。特に、後の有望な大学に進学する為には、それに適した高校を選択しなければなりませんので、高校受験の大事な時期でもある中学の時の家庭教師に関しては、力の入れ方が並々ならぬものがありました」
いよいよ本題となる、校長の男女間に対するターニングポイントともなる人物、中学時代の家庭教師の話に移行しようとしていた。
その中で、校長の意外な家庭環境などを垣間見て、再び驚きを感じていた。
財閥の一人娘として、跡継ぎを余儀なくされたにも関わらず、現職でもある学校長に就く事実。
その裏に隠された真実に迫るべく、固唾を飲むような気持で、僕は黙って校長の言葉に耳を傾けた。
「私が中学に進学すると同時に、家庭教師の方も大学生などの派遣アルバイトでは無く、進学校を目指す専門的な分野の所に依頼するようになりました。そこは、学年ごとにカリキュラムが組まれて、家庭教師も専属になってました。つまり、進級する度に、その学年の担当の家庭教師に変わるシステムなんです。その二学年の年度初めの時にでした。目の前に現れた、新しく専属された家庭教師が、今後の男女間における私の意識的なものに、多大なる影響を与える事になるのです」
「それは、校長が男女間の営みを避ける為に、契約セックスの形を取る経緯にも繋がるわけですね」
「ええ・・・ただ、後に拒絶する事になったのは、その家庭教師の方が直接関わってるわけではありません。むしろ、導いてくれただけなのです。それでも・・・後にこの事が引き金となったのも事実ではあります」
校長に取っての、その家庭教師の存在・・・・・・。
後に、男女間の拒絶を招く切っ掛けとなる人物であっても、未だに、心なしか好意的にも捉えられるように感じられた。
特に、導くという表現は、校長がその家庭教師により開花されたと言っても良いのだろう。
わずか中学二年生ながらも、セックスにのめり込んだ時期が、校長にもあった事になる。
今現在、拒絶される側の人間として存在する僕にしてみれば、校長と営みを共存した、その見えない家庭教師にさえ、益々嫉妬心がこみ上げていた。
それでも、僕の校長に対する想いを繋ぐには、その過去の糸口を探るしかなかった。
「その引き金となるのは、他にも何か関わる事があったのですか?。まあ・・・僕の様な第三者的な立場の人間が、校長の過去に携わる事に関しては、無関係であるのも十分に承知しております。ただ、その過去と関係する様に、男女間の営みを避ける事を目的として授られた『契約セックス』ですが、やはり、少しでも関わった者としては、その真意の裏側までも知りたいのが本音です」
「もちろん・・・私も、その木本先生のお気持ちは、十分に察しております。ただ、どうしてもその事実に迫るには、男女間のお話だけは、どうにも避ける事はできません。少々聞き苦しくもありますが、ご了承下されればと思っております」
「ええ・・・その辺に関しては、校長の方で気に障るもので無いのでしたら、僕の事は気にせず打ち明けられても構いません。ただ、僕は先に述べた、契約セックスするにあたって、僕を選択した理由・・・・・・その辺を踏まえた事を知りたいのです」