兄の切ない想いを-1
「マユ」
「なに?」真雪はカップから口を離した。
「俺、おまえに伝えたいことがあるんだ」
「伝えたいこと?」
「ずっと心の中にあった気持ちを、おまえに……」
健太郎は真雪の目をじっと見つめた。いつになく真剣な光を宿したその瞳に、真雪はごくりと唾を飲み込んで、持っていたカップをソファの前のセンターテーブルに置いた。健太郎も同様に飲みかけのコーヒーのカップをそこに並べて置いた。
「おまえも……結婚しちまうんだな」
健太郎の目が潤んでいた。
「な、なに? いきなり……」真雪は眉尻を下げて、照れたように笑った。「以前からわかってたことじゃない」
「俺、おまえといっしょにずっと暮らしてて、その日が来るのが実は怖かった」
「な、なんでよ……」
健太郎はこぼれかけた涙を慌てて拭った。
「変だよ、ケン兄。娘が結婚することにナーバスになるのは父親でしょ? 普通」
「俺だって」健太郎は大声を出した。「おまえが隣からいなくなるのは辛い!」
真雪は健太郎の手をそっと両手で包み込んだ。
「ケン兄には春菜がいるじゃない。彼女との結婚ももうすぐでしょ」
「ルナへの想いとおまえへの想いは違うんだ」
「違う……想い?」
「おまえは……俺の身体の一部」健太郎はうつむいた。「いっしょに生まれたからな……」
「ケン兄……」
健太郎は目を上げた。「結婚する前に、俺はおまえへの気持ちを伝えたかった……」
そして健太郎は両手で真雪の頬をそっと包み込み、ゆっくりと唇を近づけた。
真雪は拒まなかった。