幼馴染の陰謀-1
「………。」
あの日、公園で目にした光景が今でも頭から離れず焼き付いている。
私の好きな人が、自分以外の人とキスをしていた。それも私が最も信じていた人と…。
佐伯君と巴ちゃんがキスをしていた光景を見て、最初は何なのか理解が出来ず、後々
頭が真っ白になって。
あれは見間違い、別の人、そう何かの間違い、悪い夢を見ているだけ…、そう強く信じていた。
巴ちゃんと出会い一条君とも出会い、そして佐伯君と恋に落ち、毎日が輝いていた。
それが二人のあの姿を目にしてからそれが一瞬にして消え去り。
どうして、こんな事に…。
「若葉……。」
「!。……。」
聞き慣れた声に思わず振り向き、そこには見慣れた顔が。
普段なら元気に朝の挨拶を交わしているのだが、裏切り者に掛ける言葉何てない。
「お、おはよう。」
「……。」
「今日は、部活あるの?」
「………。」
「水族館の近くにね、お洒落なカフェが出来たんだって!」
「…けないで。」
「ど、どや!?一度行ってみぃひんか。」
「どうして…。」
「え…。」
「どうして普通に会話が出来るの?」
「わ、若葉。」
まるでいつもと変わらない。けど私の冷たい一言で馴れ馴れしい笑みは消え。
「……アンタには本当、悪い事したと思ってる。」
「巴、ちゃん。」
友人に酷い事言ってるようで、少し罪悪感が。
「アレは…、単なる事故…だもんね?」
「そ、それは…。」
二人がしてた周囲には坂があり、普通にお互い転び、そして不運にも。
偶然二人が口づけをし、偶然その瞬間を目撃、ちょっと不思議だけど。
そうだ、これは事故だ、以前巴ちゃんから借りた少女コミックにあったシーンにも
こういうのあったし。
ケド、彼女は首を立てに振ってはくれない。
「巴ちゃん?やめてよーこんな時に冗談とかさっ。」
「…ゴメン。」
「!!」
その一言によって、私の虚しい都合の良い推理は打ち砕かれ。そうだよ、そんな偶然漫画
じゃあるまいし、大体もしそうだったら彼女の事だ、一方的に佐伯君を引っ叩いて、私に
愚痴を零す筈。
だけど、私の電話にも出ず、今日だって一人で登校して…。
「若葉が傷つく事は分かってた。」
「なら、どうしてぇ!」
「それはアンタが一番分かるでしょっ!?」
「!?」
それは巴ちゃんの恋人、一条君が弓道部の合宿へ行き、暫く会えず。本当は今すぐにでも
帰って来て欲しく…。
でも、それは出来ずいやしないと決めた彼女。だけど胸は一方的に締め付けられ。
それであの時ちょっとしたきっかけで、自分の元恋人がまさに目の前に写り、寂しい思いを抑える事が出来ず。
「なら、返してよ。」
「えっ?」
ほんの出来心だったとしても良い、ショックだけど傷ついたけどそれは友の傷心を理解
してあげられなかった私の責任でもあり、それで少しでも心労が取り除かれれば…。
けど、一度芽生えた恋心はそう簡単に断ち切れない、無理に彼を取り戻そうとすれば
彼女はどうなってしまうんだろう…、それを考えると恐くなる。
「若葉…。」
「ついて来ないで。」
「!」
朝のHR前にトイレに行き、いつもだったらついてくのだが。
彼を、返して欲しい…、でもそんな事をすれば今の彼女は…。