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カノン
【学園物 官能小説】

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カノン-4

 ちゅっ、中学生の頃から!?
 その人と!?
 えっ、えぇえぇぇぇぇ!?

「せ、先生……その女の人と結婚するんですか?」
「えっ? まぁまだふたりとも教師になったばかりだから、まだもうちょっと先の話だろうけど──って、これ内緒な。恥ずかしいから」
「三枝先生も隅に置けませんなぁ」
「三浦先生こそ、奥さんとの出会いはかなりドラマチックだったと聞いたことがありますよ」
「えっ、はははー。あの頃は今みたいに便利な世の中じゃなかったからねえ」

 先生たちの笑い声が耳から耳へ抜けていく。
 わたし、頭の中……まっしろ。
 まさか──そんな。
 先生に、先生に……恋人がいるなんて。
 
 わたしは先生にもう一度お礼を言って職員室を後にした。
 大丈夫。ちゃんといつも通りに振る舞えたはず。お礼の言葉もおかしくなかったし、三枝先生も三浦先生もふつうに見送ってくれた。

 大丈夫。わたし、大丈夫だ。家に帰るまでは“いつも通り”っていう仮面をかぶっていればいいだけ。
 幸い、今は放課後。
 このまま誰にも会わず、さっさと帰ってしまえばいい。

 わたしがそう心に決めて振り向いたそのとき、

「あっ、花音ちゃん」

 ……よりによって、羽柴 潤と会うなんて。

「今から帰るの? 俺もねえ、これから帰ろうと思ってたんだ。一緒に帰ろう!」
「……好きにすれば」
「やったぁ!」

 ──正直、羽柴 潤の話は全く頭に入ってこなかった。
 てきとうに相槌をうって、わたしは前ばかりを見ていた。

「次の授業までに仕上げなきゃだよなー。花音ちゃんはどんな短歌を書いてるの?」
「……あれはぜんぶ書き直しだわ」
「推敲ってやつだよね、花音ちゃん意識高いなー。俺もがんばらなくちゃ」

 わたしはそうだねと平たい声で答えた。
 三枝先生を想って書いた短歌。ハートを散りばめたような、ときめきをたっぷり乗せた短歌。あんなもの、ぜんぶ書き直しだ。ぜんぶぜんぶ……。

「歌詞とかもそうだけどさ、片思いとか失恋系のほうがウケがいいよね。どうせ発表するならみんなからいいじゃんって思われたいしなー」
 
 失恋。
 まるで見えない矢が飛んできたみたい。ぐっさり、胸に刺さった。

 わたし、失恋したんだ。何にもしてないけど──何もしないうちに、失恋したんだ……。

 格好良い先生。知的でクールな先生。
 憧れの先生。
 先生の授業がある日はそれだけでハッピーな日だって思えた。
 先生の声が聞けることが嬉しくて、当てられてもしっかり答えられるようにって予習をした。
 先生が褒めてくれたから自信が持てた。
 先生がいたから──。

「花音ちゃん? どうしたの、立ち止まっちゃって……」

 羽柴 潤が訝しげに言いながらわたしを振り返った。

「花音ちゃん……花音ちゃん! な、なんだ、どうした!? 涙出てるよ、花音ちゃんっ……」


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