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珍客商売〜堕ちた女武芸者〜
【歴史物 官能小説】

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秋山親子の奮戦-7

 しかし、その時。
「とおおおっっ!!!」
 鋭い気合と共に藤兵衛が宙を舞っていた。
 その高さは十五、六尺(5m)はあろうか? 驚くべき高さである。
 びしっ!!
 一瞬、驚いた弦斎の眉間に藤兵衛の放った石礫が命中していた。
「ぎゃあっ!!!」
 先ほどの礫とは比べ物にならないほどの衝撃が走る。
 視界を失った弦斎が思わず叫び声を上げた。
 ずばっ!! どしゅっ!!
 次の瞬間、大二郎の剣が弦斎の構える槍の穂先と両腕を切断していた。
 …ぶしゅ〜っ!!
 両腕から大量の血を噴き上げながら、弦斎は苦悶の声と共にがっくりと膝をついた。
「ぬ"ぐあ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"!!!!」
 一方、藤兵衛はすっくと地に降り立っていた。
「見たか、これが秘剣・ひよどり越えじゃ。まったく、今日は秘剣の大安売りじゃのう…」
 …と、こともなげに言い、弦斎にくるりと背を向けた。

 ここで解説しよう。
 『秘剣・ひよどり越え』とは…?
 藤兵衛はまず大二郎の巨躯を隠れ蓑として使い、その背を踏み台にして宙高く飛び立つ。
 そして空中から相手を攻撃して相手の意表を突き、続く大二郎との二段攻撃を浴びせるという連携プレーであった。

「今こそ椿殿とお京の恨みを雪ぐぞ!! 死ねいっ!!」
 どしゅっ!!!
 怒りに燃える大二郎の剣が弦斎の脾腹を貫いていた。
 そして突き刺した刀をぐりぐりとえぐり回す。
「ぎゃああああああああああああ!!!!!!」
「貴様のような鬼は楽には殺さん!!! 苦しめ!! 苦しめ!! 死んでいった娘たちの無念さを思い知れ!!」
 ざくっ! ざくっ! ざくっ!
 返り血を浴びた大二郎は悪鬼の如き表情で、何度も、何度も執拗に弦斎の身体を突き刺した。
「これでもか! これでもか!」
「やめんか大二郎! こやつはとっくに事切れておる! それよりも早く椿ちゃんを救うのじゃ!!」
「…はぁ…はぁ…」
 放心状態で大きく肩で息をする大二郎。
 藤兵衛がそう言って促すと、大二郎もようやく落ち着いてきた様子だ。
 しかし振り向いて見ると、既に大きく燃え広がった炎は寿伯の屋敷を包み込んでいる。
「し、しまった!」

 かん、かん、かん…。
 遠くで半鐘の音が鳴り響くのが聞こえる。
 町火消しがここにやってくるのも時間の問題である。
「むっ。もう時間がない。大二郎、急ぐぞ!!」
 ざばっ!!
 藤兵衛は庭の片隅の池に飛び込んでまず全身を濡らすと、大二郎もそれに続く。
 そして二人は椿を救うべく燃えさかる屋敷へと飛び込んでいった。
「椿殿〜…! 椿殿〜…! 何処にいるのですか――っ?!」
 燃え盛る屋敷の中で大二郎の必死の叫びがこだました。


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