捕らわれたお京-5
「うほぉぉ〜〜〜〜っ!!」
ずぼっ! ずぶぶっ!
ぐちゃぐちゃの二穴にいきり立つ剛直がめり込む。
「むごおおおぉぉぉぉ!!!」
前後を串刺しにされたまま激しく突き上げられ、椿の苦悶の絶叫が上がった。
激しい痛みにいくらずり上がろうとしても、頭を押さえつけられては逃げることもかなわない。
男たちは椿の身体を今度は小便壷として使うつもりなのだ。
女剣士を襲う、悪夢のような凌辱の宴はまだまだ終わる様子がなかった。
その日。
江戸は昼九つ辺りから冷たい雨が降り始めた。
怪しい浪人たちの姿を求めて品川辺りの盛り場をうろつくお京と豆岩。
椿に惚れ抜いている大二郎でなくとも椿の行方は気がかりである。
…はたしてお嬢様は無事なのだろうか…?
…股座を串刺しにされて息絶えているのではあるまいか…?
…運良く生き存えていたとしても、操を奪われ、男の腹の下で喘いでいるのではないか…?
必死に考えまいとしても、最悪の事態ばかりが目に浮かぶ。
手がかりはなかなか見つからず気ばかりが焦り、二人にとっては辛い一日であった。
丸一日、足を棒にして歩き回って、夕暮れ時。
歩き疲れて無口になったお京は思案にくれていた。
(どうしたらいいんだろう…。おとっつぁんならこんな時、何処を探すんだい?)
一度引き上げて藤兵衛と善後策を相談しようかと思い、盛り場を離れて歩き出した時、街道沿いに立つ古ぼけた安飲み屋が目に入った。
そこは潰れた茶店を改造して作った店で、時折酒を買いに来る客以外は夜鷹くらいしか立ち寄らない。
「そうだ岩、あの店にも寄ってみようよ」
「お嬢さん、秋山先生のところに戻るんじゃなかったんですかい?」
「ふふ、ちょいと気が変わったのさ。ごめんよっ!」
お京と豆岩が店に入ると、後ろからずかずかと浪人二人組が駆け込んできた。
「おう親父! 酒だ! まず酒を一杯くれ!」
「少し飲ませてもらったら、後でこの徳利一杯、酒を売ってもらいたい」
二人はお京らを押しのけて酒樽に座ると一方的に注文を続けた。
浪人を見た途端、お京の身体を鋭い衝撃が貫いた。
(あたしらが探し回っていたのはきっとこいつらだわ!!)
これは研ぎ澄まされた岡っ引き特有の第六感、というやつであろう。
表情を気取られるのを恐れたお京は思わず下を向いて咳き込んでみせた。
「へ〜い、毎度…ありがとうごぜぇやす…」
奥から店の親父がようやく顔を出す。
かなり年配の男で、動作が鈍い。店が寂れるのもわかろうというものだ。
「……………」
二人は酒をちびりちびりとやりながら、浪人たちの話に聞き耳を立てている。
出された肴は「花沢庵」(沢庵を塩抜きし、細かく刻んで醤油とかつお節をかけたもの)一品のみであった。
「……あやつ、いい女だが、さんざん子種を注いでやったし、もう飽きた。弦斎殿はいつまであのようなことを続けるおつもりなのか…」
「しっ。声が大きいぞ! あれほど突っ込めば誰でも疲れるわい。わしもいささか腰が痛い。それにあやつ、もし本当に隠密であれば、既に公儀の手が回っている、ということじゃ。三尺高い木の上に首をさらす前に、我らもここをずらかる方が良いのではないか?」
「うむ。わしもそろそろ潮時だと思う」
「しかし、それには先立つものがない。出奔する前にあそこの金倉から小判を持ち出さねば…」
「そうじゃのう…」
会話を聴いた二人は顔を見合わせた。
(こやつらがお嬢様をさらった抜け荷一味に間違いない!)
しかし…椿は既に荒くれ浪人によって女の操を奪われてしまったのだ。
抜き身の刀を刺し込まれるよりはましだったものの、好きでもない男の剛直を秘所に突き入れられた椿の悲痛な思いはいかほどであろうか?
(お嬢さん…お可哀想に…)
お京は実の父によって操を奪われた自らの哀しい体験をしばし思い出していた。
しかし、いつまでも感傷に浸っているわけにはいかない。お京は豆岩に目配せをすると席を立った。
「親父、お勘定! ここに置いとくよ!」
店から出ると、少し離れた草むらに潜んで浪人たちを待ち構える。
やがて浪人が出てくるとお京たちはその後をつけ始めた。
浪人は街道から脇道にそれ、どんどん寂しい森の奥へと入ってゆく。
あたりは大分薄暗くなってきたが、幸い彼らは提灯を持っているので後をつけやすかった。
しばらくすると二人の行く手には高い塀に囲まれた立派な門構えが見え始めた。
これが近隣の百姓が『お化け屋敷』と呼ぶ、松元寿伯の別宅である。
その地下蔵では、笹原椿が縛られたまま休む間もなく色責めにされ、今も悶え狂っているのだ。
(やっと見つけた!!)
お京は自分が見張りに立ち、藤兵衛の許まで豆岩を走らせることにした。
「岩、急いで深川まで行って、ご隠居様と若先生を呼んでくるんだよ!」
「へいっ!!」
浪人たちが門を潜るのを確認すると、豆岩は猛烈な勢いで飛び出していった。
(岩…頼んだよ!!)
お京は豆岩の後ろ姿を見送って心の中で叫んだ。
しかし、ここでお京は運命のいたずらに弄ばれることになる。
同じ女として無理やり犯された椿の身を案じるあまり、自らが見張りに立ち、自分よりも足の速い豆岩を使いにやったことが事の明暗を分けた。
ここは慎重にいくべきだったのだ。
(お嬢さん、待っていて下せえ!! すぐに先生をお連れしますぜ!!)
お京の熱い心の内を知り抜いている豆岩は全力で駆けに駈けた。
しかし森を抜け、街道に出て深川に向かおうとしたその時であった。
一瞬、降り続く雨によって出来たぬかるみに足を取られてしまったのだ。