檻からの解放-2
一馬が絵茉を見つけたのは、彼女がちょうど小学生に上がった頃であった。その頃一馬も父の跡を継ぎ、社長になったばかりで毎日試行錯誤で業務をこなし正直舞いっていた。疲れ果てながらも、彼は自らのデパートの視察に赴いた。
客に自分が社長だとわからないように一人で行動し、人気があまりない休憩スペースでコーヒーを飲みながら資料をチェックしていた時だった。
するとどこからか、一人の少女が一馬に近づいてきた。
「おじさん、これあげる。」
そう言って少女は何やらキラキラと光るシールを一馬に差し出してきた。突然現れた、幼いながらも美しい少女に一馬は目を奪われてしまう。彼の心臓がドクっと大きく脈打ったのがわかった。この感情は何なのだろうか?
彼はどうしていいのか戸惑ってしまった。女の扱いは十分慣れているはずなのに、自分の息子、秀慈よりも少し小さい子どもにうろたえてしまうとは。そんな一馬の様子を子どもがわかるはずもなく、少女は無邪気に彼に話しかけた。
「おじさんここでお仕事しているの?」
一馬は平然を装って短く答えた。
「そうだよ。」
「やっぱり!絵茉の先生はね、テストで100点取ったらご褒美シールくれるんだよ。」
「そうなのかい?それじゃあ、このシールも先生からもらったのかな?」
一馬は絵茉が自分に差し出してくれたシールを指さす。
「ううん、それは絵茉の集めてるシールなの。おじさんお仕事頑張っているから、絵茉からご褒美シールあげるね。」
絵茉はニッコリと一馬に微笑んだ。その瞬間、一馬の心の中で何かがざわめいた。小さな絵茉に釘付けになってしまう。
「―――君の名前はなんていうの?」
「絵茉だよ。五十嵐絵茉。」
「そうか、絵茉ちゃんは何歳なのかな?」
「今年ね、小学校に入ったの。10月にね、7歳になったんだよ。」
一馬の心の中で葛藤が始まる。自分の息子より幼い幼女に自分は何をしようとしているのか・・・。絵茉は曇りない笑顔で一馬を見つめる。
すると、どこからか女の声が聞こえた。
「絵茉――!帰るわよ!」
「あ、お母さんだ。じゃあ絵茉帰るね。バイバイ、おじさん!」
そう言って絵茉は一馬の元から駆け出して行ってしまった。一馬は資料の上に残された、絵茉が置いて行ったシールを見つめた。