越えられない父の存在-3
絵茉はしばらくボーっとそれを見つめていると、背後に誰かが立っているのに気がつき後ろを振り返える。そこには疲れた顔をした寝間着姿の一馬が立っていた。
「絵茉、起きたのか?」
「・・・はい。」
「昨日は大変な目にあったな。」
「はい。・・・おばさまはどうなったのですか?」
「精神状態が落ち着くまでしばらく入院することになった。」
「そうですか・・・。」
絵茉が俯くと、一馬は彼女を抱きすくめ彼女の唇を突然奪った。
「んんっ!」
絵茉は彼から離れようと顔をそむけようとするが、一馬は絵茉の後頭部に手を回し、ついばむ様に唇を何度も重ねた。そのまま一馬の唇は絵茉の首筋を力強く一度吸い付き、彼女にキスマークを残すと、もう一度力強く抱きしめる。絵茉は腕をだらんと伸ばしたまま、動かす事さえしなかった。
するといつの間にか降りてきた秀慈が一馬に呼びかけた。
「―――父さん、何やっているの?」
空気が凍り付く。絵茉は目をまん丸にして固まってしまい、秀慈の方を見れなかった。それに反して一馬は何事もなく、絵茉を抱きしめたまま秀慈の顔を見た。
「見てわからないのか?絵茉を慰めているんだよ。昨日はお前の母さんのせいで大変な目にあったからね。怖かっただろう?絵茉。」
何食わぬ顔で一馬は絵茉の顔を覗きこむ。絵茉の焦点はすでに合っていなかった。秀慈に見られてしまった!と焦り、彼女はどうしていいのかわからないで動くことさえ出来ないでいた。