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元彼
【元彼 官能小説】

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元彼1-1

――もう2年になる。
私は、雨がまとわり付く梅雨の空を、窓越しに眺めながら、ふとそんな事を思った。
「ふぅ…」
こんな季節は気が滅入る。私は学食の席を立ち、とっくに食べ終わった親子丼のどんぶりを下げて外へ出た。
「すっかり欝だな…」
ポン、と手を自分の頭に乗せて、眉間にしわを寄せてみる。
柳田 アキ。私の名前。19歳。大学一年。
すっかり淀んだ空を難しい顔のまま見上げ、透明の傘を差した。
―2年前、私は大好きな彼氏に、振られてしまった。原因はきっと、お互いにあったのだと思う。ただ…
『お前の事、好きなのかどうかもう、分からなくなった』
そんな曖昧な言葉が、辛かった。大嫌いになってしまえたら、諦めも付くのに…。そう。私は今でも、元彼の事が好き。
「はぁ…」
そしてこんな季節になると、幸せだったあの頃を、鮮明に思い出してしまうのだ。何故なら、告白されたのが、このくらいの時期だったからだ。
あの頃の、会うだけで有頂天になったり、メールを待つ時間が切なかったり、手を繋いで喜んだり、キスして恥ずかしがったり、愛し合って安心したり…そんな事を、思い出してしまうと、淋しくて、悲しくて、切なくなる。
私は、ゼミが早めに終わったので、大学からバスで駅へ向かった。
バスから降りると、水溜まりが散乱したコンクリートが、一面に広がっていた。私はその上を、淡々と規則的に歩く。向かうは私の家。駅から徒歩10分の小さなアパートに、一人で暮らしている。こんな鬱な日は、早く家に帰って寝たほうが良い。そう思って足早に家路をたどる。
―ピピピピ!
と、突然携帯が鳴った。携帯のディスプレイを見ると、女友達の宇田川 トモからの電話だった。二つに折られた携帯を開き、内蔵スピーカーを耳に当てた。
「もしもし?」
「あ、アキ?」
「どうしたぁ?」
「あのね、彼氏のことで相談があって…」
いつもの事。トモは高校の時からの友達。そして、トモの彼氏、和田 孝之は、私の中学の時からの友達。必然的に私は、この二人の間に挟まれる状態になった。そして1年前に、二人はめでたく恋人という関係になった。恋のキューピットとなった私は、今でも二人の駆け込み相談所。
「とりあえずもう一度話してごらん?」
「うん〜…」
一通り話を聞いた私は、呆れ半分でそう言った。トモは納得いっていないみたいだけど。
でも、しょうがない。要するに、複雑な女心を彼に理解してもらえ無い事に、歯痒い思いをしているのだ。気持ちは分かるけれど、トモの彼は、女心を理解出来る様な、そういう男じゃない。驚異的な鈍感で、でも、とても純粋な、少年の様な男なのだ。
「彼のそういう所を承知で、付き合ったんでしょ?言いたい事は私じゃなくて、彼に言わなきゃ」
言いたい事をちゃんと本人に言わないのは、トモの悪い癖だ。
私はパチンと傘を閉じ、自室の鍵を開けながら、顎と肩で携帯を挟んで部屋のドアを開けた。
「うん。わかった。ちゃんと話し合ってみるよ」
「そうしな?ちゃんと解決したらまたメールしてね」
「うん。ありがとう」
「はい、じゃあね〜」
ピッと切断のボタンを押し、携帯を閉じてカバンに放った。靴を脱いだばかりの足から靴下を抜き取り、洗濯籠へ放り、上着を脱ぎ捨ててベッドへ体を預ける。
「はぁぁぁ〜…」
枕に顔を埋めて、深いため息を吐いた。さっきの電話でさらに気持ちが欝になった。
正直…私は、彼女達が単純に羨ましかった。だって二人は好きな人と両思いで、連絡だっていつでもとれて、会いたいと言えば暇を開けてくれる。今の電話の内容など、私からしてみれば贅沢な悩みだ。
私も、元彼とはたまにはメールするけど、会ったりもするけど、それは『友達』として。


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