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痴漢専用車両へようこそ
【痴漢/痴女 官能小説】

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卒業のその後に-5

「あ〜、さては彼女でも来てるのかな?だったらあたしに紹介しなさいよ。お義母さんがお仕事で留守をいい事に、家に引っ張り込むなんていけない子ね」

止める雄一を振り切って、好奇心に目を輝かした陽子は勝手知ったる家に強引に入っていった。

居間の扉の陰で様子を伺っていた悠子は慌てたが、驚いた体が硬直し咄嗟に動くが逃げる事ができなかった。そんな事も知らずに陽子はその扉を開けてしまった。

中に居た予想外の女の姿に、陽子は固まってしまった。

「悠子…」

驚きで目を見開く悠子の痩せた姿を前に、陽子の言葉は続かなかった。

悠子はその隙に自分の部屋に掛け込むと、ベッドに顔を伏せて泣いた。色んな感情が混ざり合い、それが悲しいのか、悔しいのか、はたまた、申し訳ないのかが、自分でもわからなかった。

そんな悠子に対して、陽子も声を掛ける事すらできなかった。こちらは無性に悲しくて、涙を流して呆然と立ち尽くすしかなかった。そんな背中に向かって雄一が最良の言葉を掛けた。

「ごめん、今日は帰ってくれないかな…」

それでも『はい、そうですか』と帰る事はできない。

「いつからなの?」

湿った声で聞かれた問いに、雄一は正直に答えた。

「今朝…。車で連れて帰ったところ…」

その答えを聞いて陽子はギュッと目を閉じた。余りにもピンポイントな偶然、それはもう必然だった。各務家で育った陽子はそういう考え方が身に沁みついていた。

「そうなんだ…」

一言ポツリとつぶやいた陽子は、そのまま踵を返してトボトボと悠子の居る家を出て行った。どうしていいかわからない雄一は、声を掛ける事も出来ずに、ただ黙ってその背中を見送るしかなかった。

陽子にはさっきまでの高揚感はもう無かった。複雑な想いを胸にしながら、陽子は自分に高揚感をもたらせていたホンの2時間前の出来事を思い返した。それは3ヵ月ぶりの一本の電話だった。

『陽子?オレだ』

「星司なの?あんた一体何やってんのよ、ここんところ連絡も入れないで!」

『悪かった』

「悪かったじゃない!いつになったら帰ってくるつもりよ」

『帰る途中だ。トランジットで足止めされてるけど、深夜にはそっちに帰れるよ』

「本当なの!」

陽子の心は喜びで満たされた。例え実りの無い想いだとしても、愛する者が帰ってくる事が陽子に高揚感をもたらせた。

しかし、雄一に言いそびれた『星司が帰って来る』という喜びのニュースが、悠子と会った事で一転し、陽子の心を複雑な想いへと変化させていた。ただただ星司に会える喜びが勝り、陽子は自分自身が視野狭窄になっていた事に気付いた。それよりも自分の考えの浅はかさを呪った。

星司と悠子が別れて1年半。前向きに自分の夢に取り組んでいた陽子にとって、1年半前の事は過去になっていた。雄一からは『悠子も新しい環境で頑張っている』と聞かされていたから、基本的に【陽】の陽子はそれをそのまま真に受けていた。

悠子が一切の接触を絶っていても、あんな別れ方をしたので、『会わせる顔が無いんだろうなあ』と思い、それを気遣った陽子からも、特に悠子に連絡を取る事は無かった。ただ心の中で新天地での幸せを祈っていた。

(あたし達はまだ若い。時間と新たなる環境とが負った傷を癒してくれたし、このまま、それぞれの道を進むんだ)

さっきまではそう思っていた。しかし、悠子の顔を見た途端、その考えは雲散した。

(時計が…動いた…)

陽子はトボトボと歩きながら、1年半前に止まった時計の歯車が再び動き出した事を自覚した。

次の日の早朝、星司は帰ってきた。


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