光の第8章【ウルトラパワーの憧れ】-1
光の第8章【ウルトラパワーの憧れ】
一説に7兆個もあるといわれる銀河系。そのほとんどが人類には未知数だといえる。
その【光】の故郷は、そんな未知数な銀河系の一つにある一際明るく輝く恒星だった。
その当時、母星であるその恒星に身を寄せていた【光】は、長い休息期間を経て、そろそろ活動期に入りつつあった。といっても、本格的な活動を再開するのは、我々の時間軸で例えれば、通常で数十年、長ければ数百年先のことだった。
【光】は本格的な活動期に入る前には、広い宇宙に意識を張り巡らせて、情報の収集に努めるのが常だった。それは何百回、何千回と繰り返される目覚めにおいて、毎回変わることの無い恒例の行事だった。
収集した情報を分析して活動内容を確定するが、場所と対象者が違うだけで、概ねその活動内容は限られていた。ただ【光】として具現化し、対象者たちに力を与えて導くか、もしくは破壊するだけだった。
しかし、まだ若い【光】は、その活動の在り方に変化を求めていた。これは何も【光】だけが特別ではなく、彼らの成長期にはありがちなことだった。だが【光】たちは自身の矜持により、それを他の【光】に知られることを好まなかった。【光】は自身の思いを秘匿した。
ある時期から【光】は、対象者たちが表す喜怒哀楽に興味を持ち始めた。もちろんエネルギー体である【光】にもそれらの感情は存在するが、対象者たちが示すほど強く感じたことはなかった。
その差を疑問に思った【光】は対象者たちを観察し始めた。そして気付いたことは、どうやらそれらの感情の強さは、対象者たちが持つ肉体に起因しているらしいことがわかった。
【光】の観察はさらに進み、それらの感情の多くは、肉体が感じる『快楽』と『苦痛』から起こることがわかった。当初、興味だけに留まっていたが、幾つもの対象者たちの喜怒哀楽を見ているうちに、いつしか肉体に憧れを覚え始めた。特に興味を覚えたのは、生殖活動中に雌が見せる身を震わすほどの感情の激しさだ。
思い余った【光】は、何の準備もないままに、ついに肉体との同化を試みた。
しかし、結果としてこれは上手くいかなかった。単純に肉体に同化をしようとしたが、【光】の強さに対して、肉体は余りにも脆弱であり過ぎたのだ。ゴム風船の中に、一気に大量のプールの水を注ぎ込むようなことだった。悲惨な結果は記さないでおく。
その結果に落胆した【光】は一旦断念したが、数度の活動期を経るうちに、再びその思いが募っていた。
【光】はもう一度試すことにした。しかし、【光】たる者、もう失敗は許されなかった。
【光】は自身と肉体の違いを考えた。まず、第一に寿命の長さが圧倒的に違っていた。対象の星によっては多少の違いはあったが、【光】の活動期の間に、対象者たちは何度も世代交代を繰り返していった。
幾度も新しい命が芽生えるのを見ている内に、【光】はある方法を思い付いた。2世代にわたって遺伝子レベルで【光】に肉体を慣らすことを。
選ぶ個体は雌に限定していた。【光】は恒星に身を寄せながら、対象者たちの住む星に意識を飛ばして、目星を付けていた個体が生殖活動を始めると、その瞬間が来るのを注意深く待った。
【光】はその雌が気持ちよく喘ぐ様子に、更なる肉体への憧れが募った。
雄が射精し、雌が受精したのを確認すると、【光】は自身のエネルギー体からホンの僅かな【光】を分かち、それを飛ばして受精して間もない母親の子宮に同化させた。
【光】と同化した子宮に宿された胎児は、【光】を吸収しながら成長した。その胎児が雌として生まれるように、遺伝子操作したのは言うまでもない。
やがてその胎児は【光】を宿す雌として誕生し、大人へと成長していった。
そして成長した雌が次世代の胎児を身籠ると、【光】はまた自身から少量の、しかし、親世代の時よりも大きな【光】を分かち、次世代の胎児を身籠る子宮に分け与えて、その誕生と成長を見守った。
【光】を宿した次世代の雌が成長すると、【光】は再び同化を試みた。初めは上手くいくと思った。しかし、肉体が突然巨大化を始め、それが収まることがなく、またもや悲惨な結果を迎えてしまった。
ここまできたら、もうやめられない。かといって本当にもう失敗は赦されない。【光】は休息期に対策を考えた。
本来ならば休息期には、次の活動期に備えて目一杯エネルギーを蓄えるのだが、それを半分に制限し、更に慎重にことを進めることにした。2世代にわたっての遺伝子操作が失敗に終わった結果を見据えて、思い切ってその倍の4世代にわたって【光】に慣れさすことにしたのだ。