深まる謎-6
素っ裸で手足をきつく縛られ、両脚を閉じられないよう固定された女隠密。
そして荒くれ浪人たちは代わる代わるその身体を嬲りものにしたのであろう。男たちが飽きるまで何度も身体の奥に精を放たれたに違いない。
どんなにか恥ずかしく、悔しく、そして身体が燃え上がっただろう?
女隠密が受けたであろう身を焼くような恥辱と被虐の快感を思い浮かべるだけで、お京の『女』の部分が熱く疼いてたまらなくなるのだ。
むきっ。くりくりくり…。
左手は肉鞘を剥き上げて、すっかり硬くなった肉芽を刺激する。
「ああっ! も、もっと…もっと激しくしてぇ…」
ぐちゅっ! ぐちゅっ! ぐちゅっ!
激しく指を動かしながらお京は喘いだ。
指を美味しそうに飲み込んだ膣口が愛液がしとどに溢れ出させ、さらに湿ったいやらしい音を立てる。
官能の絶頂はすぐそこであった。
「ああんっ…。いやっ! 逝くっ!! 逝くううっ!!!」
思わず身を固くして海老のように反り返らせて、気をやってしまう。
ぷしゃあああっ!! びゅっ! びゅくっ! びゅくっ!!
開き切ったお京の御女子から逝き潮が飛び出した。その勢いは止まることなく、何度も何度も噴き上げる。
その噴き上げっぷりはまるで鉄砲魚だ。
お京の浸かっているたらい桶の周りは、たちまち淫水がつくる水たまりで一杯になってしまった。
「はぁ…はぁ…。誰かいっそ…あたしを…滅茶苦茶に…してくれたらいいのに…」
ひとしきり逝った後の心地よい疲労感と夢見心地の中で思わずそんなはしたないことを呟いてしまう。
だがその淫らな願いが、最も残酷な形で叶うことになろうとは…。
そして翌朝。
お京が朝餉の支度を整えていると、一人の男が訪ねてきた。
「お嬢さん、お早うございます」
挨拶したのはがっしりとした体つきの三十男。
「豆岩、遅かったじゃない? 昨夜遅くなっても顔を出すって言ってたのに」
『豆岩』とはもちろん渾名だ。本当の名を岩松という。
長兵衛がまだ元気だった頃からの子分で、数々の修羅場をくぐり抜けてきた。
背は低いが度胸と腕っ節は人一倍、おまけに石頭。思い込んだらテコでも動かないしぶとさがあり、仲間内ではそう呼ばれている。
「へぇ、そ、それが…。ちょいと野暮用がありやして…」
「ふ〜ん。どうせどっかの安女郎のとこにでもしけ込んで引き止められたんだろ?」
「へぇ。ず、図星で…」
豆岩はすまなそうに頭を掻いた。
「まぁいいわ。今日は許したげる。まずは上がって飯を食いな。仕事の話はそれからよ」
「へぇ、お嬢さん」
豆岩は座敷に上がり込んだ。
炊きたての飯と漬物に味噌汁だけの簡素な食事だが、長兵衛、お京と三人で囲む食卓は久しぶりであった。
女郎としけ込んだなどとは、もちろん豆岩がついた嘘である。
本当は約束通りお京の家に現れたのだが、奥の座敷から聞こえてくるお京と長兵衛の喘ぎ声を聞き、そのままこっそり帰ったのである。
自分に捕物のいろはを教えてくれた親分と、子供の頃から知っているお嬢さんだ。
どんなに淫らで浅ましい事をしていようとも、豆岩は何も言わず知らぬふりをしている。
そういう優しさのある男なのである。
食事が終わると、お京は後片付けをして長兵衛を寝かしつけた。
そしてお茶を淹れながら、藤兵衛から聞いた話をかいつまんで説明した。
豆岩はずっと黙って頷いている。
「…とまぁ、こういうわけなんだよ」
「抜け荷、ですか…。しかし一体何処から手をつけていいものやら…」
豆岩は茶をすすりながらようやく重い口を開いた。
今度の捕物は大物だ。これほど大掛かりな犯罪となると、一介のヤクザに出来るものではない。
だとすれば、何処かの大名家が関わっている可能性がある。町方役人は管轄外の大名屋敷にはうかつに立ち入れない。
「とりあえず、平田様にこれからの出方を伺ってみようじゃないか?」
『平田様』とは、南町奉行・大岡越前守忠成配下の定町廻与力・平田作次郎のことである。
二人は早速家を出ると、南町奉行所(現在の有楽町辺り)へと足を向けたのだった。
赤坂辺りの武家屋敷を通り抜け、溜池を横目に見ながら歩く二人。
ずっと押し黙っていた豆岩が突然話しかけた。
「お嬢さん…」
「ん? 何だい?」
「お嬢さんは…その…嫁に…行かねぇんですかい? 親分が元気なうちに…孫の顔を見せてやったら…どうですか?」
「あははは、藪から棒に何を言い出すんだい? ガキのおむつなんか代えてるより、あたしゃ捕物の方がよっぽど性に合ってるよ。それにこんな跳ねっ返りじゃ、嫁の貰い手なんかあるわけないし」
「そ、そんなこと!」
豆岩は思わず声を荒げた。びっくりして振り向くお京。
「…そんなこと、ねぇでがす…。お嬢さんならきっと、いい男が…」
自分の声の大きさに驚いた豆岩は決まり悪そうにぼそぼそと付け足した。
そう、豆岩はずっと以前からお京に思いを寄せているのだった。
昨夜はお京の色っぽい喘ぎ声が耳に残ってしまい、一人自分を慰めていた豆岩だった。
「そうかねぇ…。そんなことよりあんた、自分の嫁取りを心配しな! 今度あたしがいいの見つけてやっからさ!」
しかし、そんな豆岩の気持ちに気づくことなく、お京はあっけらかんと言い放った。
そんな自分のぞんざいさがどれほどこの男を苦しめているか、まったくわかっていない様子だ。
(お嬢さん…あっしは…あっしは…お嬢さんを…)
心の中で何度も呟く豆岩。
その目線の先には、肉付きの良いお京の尻がぷりぷりと揺れている。
後ろから思い切り抱きしめたい。そして親分のようにその尻肉に顔を埋め、思うがままにしたい。
しかし豆岩にはそんな思いを告げる勇気もなかった。
ここにも一人、報われぬ恋に泣く男がいた。