プロポーズ-10
奈々子と葵の関係に気がつかない幸雄は、彼女の肩を抱き寄せて歩き出す。
「奈々ちゃんお大事にね。あとでお粥でも届けに行くよ。」
気遣ってくれたゆかりに、かろうじて奈々子は笑顔を作った。
タクシーで奈々子の家まで向かう。
家に着くまで幸雄はずっと彼女に寄り添っていた。
彼は奈々子をベッドに寝かせると、そっと呟いた。
「ごめん、奈々子。昨日から色んな事あり過ぎて、体に出ちまったんだな。」
「・・・・ごめんなさい。」
「謝んなよ。昨日のは俺が悪かったんだからさ。」
「違うの・・・私・・幸雄と結婚できない。」
「・・・何で?」
「私、好きな人がいるの・・・。私、幸雄と別れたと思ったから、
彼に付き合ってって言っちゃったの・・・。」
「―――それで?」
「彼と付き合ってるの。」
幸雄の表情が固まったのがわかった。
「私と別れてください・・・。」
奈々子の言葉は聞こえたはずなのに、幸雄はスタスタと玄関へと歩き出した。
「また連絡するよ、奈々子。お大事に。」
幸雄はそれ以上何も言わず、部屋を出ていった。