M-8
「地に足立ってないね」
「……」
「なのにここまで上り詰めるって、それ相当の思いがあるんじゃないの?じゃなきゃ身体壊すまでできないでしょ」
「すみません…」
「あはは。いーけどさ、あの日のことは」
陽向は座り込み、ずっと被っていた帽子を地面に置いてうずくまった。
「帽子の痕ついてるよ」
進藤は笑いながら陽向の髪を撫でた。
「プリセプティーがこんなめんどくさい子だなんてやだなー」
進藤はおかしそうに笑って隣に腰掛けた。
夏を感じさせる南風に似合わない、夜でも冷え切る空気。
ウィンカーをちらつかせながら通り過ぎる車、バイク。
あたしは、何を目指してるのかな……。
こんなこと、ずっと前にも思ってた。
いつだか忘れたけど。
「進藤さんは、迷うことないんですか?」
「あるよたくさん。ま、仕事のコトくらいだけど」
「仕事…」
「今の風間には仕事よりそっちのが大事そうに見えるよ」
それはそうかもしれない…。
「ま、それなりに仕事は出来てるからさ……去年の風間じゃ考えられないくらいに」
「なんか悪意感じるんですけど」
「あははー!悪意あるかも」
「もうっ!」
その時、進藤に思い切り帽子を被せられた。
「好きな事、もっとやりなよ。有名だろうとそうじゃなかろうと、風間は風間なんだから」
「……」
「答えなんて生きてれば見つかるよ。その時まで今の気持ちはおやすみだよ。ライブ、あと5つ残ってるんでしょ?それが終わったら考えればいいよ」
「はい…」
陽向はヨロヨロと立ち上がった。
「2年目もプリセプターかぁー」
「え?」
「何でも聞くから。迷ったり困ったりしたら言って」
陽向はボロボロ涙を零した。
「進藤さんっ!」
思い切り泣きじゃくって抱きつく。
恥ずかしかったけど、そうせざるを得なかった。
進藤は「あー、めんどくさっ!」と笑いながら陽向の頭を撫でた。
支えてくれる人がいま、ひとり増えた。