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プラネタリウム
【ラブコメ 官能小説】

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M-7

「薫が不安に思う理由、分かる気がする」
帰り道。
進藤はコンビニで買った水を飲みながら陽向の隣を歩いていた。
「あたしはバンドとか興味なかったし聴いたこともなかったの。でも薫に聴いてみてって言われてこの前初めてそーゆーの聴いたんだ」
通り過ぎる車の音に敏感になる。
まだ最終のバスはあったのに『歩いて帰ろう』なんてことになった。
自分も、そんな気分だった。
「Hi wayのCDだったの」
「……」
「あれ、風間が全部作ってるの?」
「いや……曲の構成はドラムの子です。歌詞とメロディーはあたしが作ってます」
陽向はそう言った後、慌てて否定した。
「で、でも……みんなで作ってる感じなんで…あのCDに入ってるのは…なんてゆーか……」
横断歩道を渡る間、必死になって口を動かす。
何に対して必死なのか、よくわからなかった。
恥ずかしいって思ったのかもしれない。
「すごく感動した」
「え…」
渡り切った横断歩道の上にある信号が青から赤へと切り替わる。
「音もいいなって思った。だけど、やっぱり歌詞がすごく心に響くの。本当にすごいよ、風間は…」
虫が寄って来そうなくらい眩しい黄色のカーディガンに指先をすっぽり隠し、お気に入りのえんじ色のスニーカーを従えて歩く夜道。
進藤にそんなこと言われると調子が狂う。
「歌詞カードも手書きでなかなか味あったよ」
隣で進藤がクスクス笑う。
「え!ちょー恥ずかしいからそれ言うのやめてください!」
「あははは!いーじゃん!あたしもあれ欲しいなー」
「瀬戸さんにもらえばいーじゃないですか!」
「絶対くれないね!」
仲良く歩く時間はずいぶん長くて、短くて、楽しくて、切なかった。
いつでも会えるのに、この時だけは尊いと思ってしまう。
「風間は有名人かぁ……」
そんな一言が心に突き刺さる。
「有名人なんかじゃ…ないです」
「居酒屋の女の子だって、目輝かせて風間のこと見てたじゃん」
「多分、結構ライブ来てくれてる子なんだと思います…。この辺のライブハウスでよくライブやるんで」
「風間はこの先どんな風になりたいの?」
「え?」
考えたこともなかった。
「有名になってテレビに出たいとか、海を渡って音楽届けたいとかさ」
「いや、ビッグ過ぎます」
陽向は笑った。
「じゃあどうなりたいの?」
そろそろ分かれ道となる手前の長い橋の上で川を見つめる。
なぜか、立ち止まってしまった。
「好きな音楽を創り続けて、好きなようにライブして、好きな仲間と大切な時間を過ごしたいと思ってます」
その言葉に、全てが詰まってると思った。
「有名になったらもっと欲が出て、あれもこれもってなるのが人だと思うんです。でも、あたしたちはいつまでもこの環境で好きな音楽をやっていたい。…ただ、それだけです」
進藤は何も言わなかった。
いや、考えてたのかも。
やがて分かれ道に辿り着いた時「じゃあなんで今、全国を回ってるの?」と言った。
「それは……」
なんでだろう。
ここにとどまっていればいい。
それだけの話じゃないか。
今言った事と矛盾している事をやっている自分はなんなんだろう。
上を目指したいと思っている仲間ともう一人の自分に自惚れたのか。
いや、それは違う。
自分らがやりたいことをやって心打たれる人がいるならそれは嬉しい。
高望みはしない。
あくまで、自分らが楽しければいい。
それが今の自分の答えなのかもしれない。


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