〜 理科・測定 〜-4
「いつまでもボールで遊んでないで、そろそろマスターベーションの時間は終わり。 机の上にある大きい方の『シリンジ』を乳首にあてなさい」
慌ててボールの挿入を諦め、私は『シリンジ』の先端を胸にあてた。 ガラス製の『シリンジ』は、一見すると太い注射器のような形をしている。 2つのガラス器具が組み合わさった装置で、一方を押すと中の容積が縮み、先端から勢いよく中身が押し出されるというものだ。
「一応乳首といいましたけど、別にどこでもいいですからね。 クリトリスでも全然オッケーなんだから、遠慮しなくていいよお。 で、これから測定するのは『圧力』ね。 『シリンジ』の先を乳首につけて、思いきり把手を押しちゃって。 その刺激でもって、圧力を測定してもらうから。 基本的に1万Pa(パスカル)から100万Paまで計れたら、1人前の器具っていえるかもね。 誤差は2割って決まってるけど、個人的には1割以内に納めて欲しいかな」
圧力なんて、人間が頓着しない数値まで計らせるらしい。 圧点は肌で最も少ない感覚点だ。 それを、誤差1割だなんて、今更とはいえ無茶苦茶である。
「あんまり弄ってオナったらダメよ。 じゃ、適当に頑張ってみましょう。 はいっ」
確かに乳首に刺激はあるが、性感に繋がるわけがない。
「……!」
思いっきりシリンダーを押してみた。 シリンジが乳首を押しつぶし、乳首ごと乳房にめり込む。 痛みもさることながら、シリンジに内臓された圧力の数値を見て驚いた。 2万パスカルだ。 全力でシリンジを押し込んで、乳首がビンビンに押されているというのに、たったの2万パスカルだという。 だったら10万パスカルは、いったいどれだけの力で押されたときに生じるんだろう? 将来、自分の身体が10万パスカルで圧し潰されるような、そんなことが待っているんだろうか?
疑問に思っても、質問はできない。 尋ねたところで罰を与えられるのみと分かっている。
「はい、シリンジはそこでお終い。 机の上に置きなさい。 代わりに『ヒートメーター』を使います」
そうこうするうちに、私達が演じるべき、5つめの器具の説明が始まった。
『ヒートメーター』――設定した温度になる金属の棒だ。 この棒を使うという時点で、次の器具がなんなのか、凡そ私には分かってしまった。
『温度計』だ。
「皮膚でも粘膜でも何でも使っていいから、貴方たちは温度も測定できるようにならなきゃいけません。 範囲が決まっていて、マイナス10℃から100℃までだから、質量に比べたら全然簡単よ。 一番使い易いのは『人差し指』だけど、敏感なのはクリトリスや乳首だから、熱湯にクリトリスをつける根性があるんなら、クリトリスをおすすめするわ。 あとはやっぱり『ベロ』よねえ。 すぐに火傷して爛れるから使い勝手は悪いけど、かなり細かく温度を把握できるわ」
マイナス10℃――皮膚が凍る冷たさだ。
100℃――お湯が沸騰する高熱だ。
どちらにしても人体が無傷で扱える温度では決してない。
「……」
手にした『ヒートメーター』を見つめる。 これまでの流れからいって『ヒートメーター』を使って温度を体に刻み込むことになるんだろう。 マイナス5℃に設定して、例えば指先や舌で『ヒートメーター』を舐め、肌でマイナス5℃の世界を覚えるわけだ。 ということは、今後私は謎な温度の物体を舐めたり、股間のもっとも敏感な突起を押しつけたりして、或る時は凍傷、或る時は火傷に悶えながら、温度をはからされるのだろう。
「誤差は2℃まで認めています。 一番間違いが多い測定項目なので、色んな温度を、色んな皮膚で確かめておかなきゃ後で辛くなるよお。 時間は10分あげるから、気をしっかりもって頑張りなさいねえ」
「すぅ……」
教官がスタートの号令をかけるまえに、私は大きく息をすった。 最初に試す温度は決まっている。 先に冷たい温度を試すより、まず熱い温度を試し、だんだん温度を下げ、最後に冷たい温度で冷やすことで火傷を抑える。 これが一番合理的だ。
「……」
息を詰め、『ヒートメーター』の温度を設定する。 温度は100℃、たちまち周囲の空気までもが熱くなる。 私はギュっと目を瞑ると、『ヒートメーター』の先端に、震える舌を差し伸ばした。