初デート-7
好きなものが食べられると、奈々子は満足げにメニューを選び、
食事を摂り始める。
すると奈々子は、ふとゆかりの言葉を思い出した。
「ねえ、そういえば葵君はドクターになりたいって本当?」
「うん。まぁ・・・。」
「そうなんだー。じゃあ頭、いいんだね。」
「そんなことないよ。奈々子さんだって頭良いじゃん。看護師なんでしょ?」
「あー・・・学生の時は必死に勉強したんだっけなぁ・・・。」
彼女は昔を懐かしむように、学生時代の事を考えていた。
――――と我に返る。
自分が懐かしいと思っている学生時代を、葵は今、謳歌しているのだ。
そんな事を考えていると、葵が突然笑いながら言う。
「また妄想モードに入ってた。」
「え?」
「奈々子さん、時々自分の世界に浸ってるよね。」
「え、うそ!何でわかるの?」
「顔にすぐ出るんだもん。」
奈々子は自分の頬が赤くなるのを実感した。
彼といると、自分の方が子どもみたいに思えてくる!と思い、両手で頬を押さえる。
「・・・私、わかりやすい?」
「全然。何考えてるかわかんない。」
「もー・・・どっちなのよ。」
「どっちも本当。何か考えてるんだけど、何を考えてるのかわからない。
だからもっと奈々子さんの事知りたい。」
そう言うと葵はじっと、奈々子の目を見つめてきた。
「かわいいね、奈々子さん。」
そう言って彼はようやく、彼女から目を逸らした。
奈々子はもう、食事の味なんて記憶になかった。
悪戯に自分を翻弄する彼に、すでに心を奪われ始め
奈々子は彼の魅力から抜け出せなくなっていった。
(私ももっと葵君の事が知りたい。
でもそんな事言ったら、私どうなっちゃうんだろう。)
しかし彼女はまだ、10歳も年下の、ましてや高校生と付き合うという覚悟は
決まっていなかった。