初デート-6
映画館が入ったショッピングモールに着く。
平日の午前中とあって、客はまばらだった。
「奈々子さん、おなかすかない?」
「あ、もうすぐお昼だもんね。先に何か食べようか?」
「俺、お腹ペコペコ。」
「葵君は何が好きなの?」
「何でも食べれるよ。奈々子さんは?」
「私も・・・。」
彼女は気がついた。
そういえば、いつもデートの時は幸雄が店を決めてくれていた・・・。
彼女は自分でレストランを探したことなんてなかったのだ。
今まで幸雄に頼りっきりで、
自分は何もできない空っぽな人間だと思い、情けなくなる。
「どうしたの?奈々子さん・・・。具合悪い?」
「あ、ごめん!何でもないの。あ、あの定食屋さんは?
私、和食好きなんだ。葵君は食べれる?」
「いいよ。」
そうして彼らはショッピングモールの一角にある定食屋に入った。
我ながら定食屋なんて、色気がなかったかもしれない・・・。
きっとこのくらいの年の子は、女の人はもっとお洒落なカフェに
行きたがるものだと思っているかもしれないのに。
と奈々子は思ってしまった。
いつも幸雄が予約するレストランは
イタリアンやフレンチレストランばかりだった。
彼はワイン派だったのだ。
奈々子は本当は、日本酒や焼酎と共に和食を食べるのが好きだったが、
彼に言え出せないまま、ずるずると何年も過ごしてきてしまっていたのだ。