〜 国語・基礎 〜-2
「では4番さん。 『無性にオマエを狙い撃ちたい』を言い換えてみなさい」
「はい! 『きんもくて臭いクリチンポしこりながら、アへ顔晒してマンズリこかせてください』!」
――上記に対し、教官が表現に指定を加える場合もある。 例えば『哲学的に』や『文学的に』、『ノリノリで』といった具合だ。 『いったよ、僕は、投降しろって』を例としよう。 『哲学的』に換言するなら、
『絶頂したことを、私の命題は性の自主性に対する奔放さの勝利とみなし、理性ではなく性感に従って生きることを誓います』
といったように、衒学味が随所にでる。 『文学的』に言い換えれば、
『静かに性癖を刺激し、私は自分自身に問いかけながら、はしたなく絶頂する自分を認めないわけにはいかない』
のように、回りくどい表現になる。 『ノリノリで』おこなうことを求められれば、
『ちょーマジでチツマンコびしょびしょだから、クズいマンズリしっこしこにキメキメしちゃう☆』
……意味不明な勢いを出すことになる。 表現という世界に正解はない。 ただ、正誤を判定する教官がいる以上、私たちは自分がとるべき振舞について懸命に考えざるをえない。
どの表現にしても原文の意図を踏まえたうえで、自分達の淫らで愚かな本質を内包しなくてはいけない。 真顔で、或は笑顔で『表現』を繰り返す私たちの瞳は、表情とは裏腹に、きっと皆一様に虚ろんでいると思う。
……。
表現力を鍛える手段は『換言』ばかりではない。 文脈を推量し、空欄に当てはまる言葉を発想することもまた、国語を鍛える立派なトレーニングだ。 『国語基礎・空欄適語』という授業では、次のような構成で進む。
まずは12号教官がチョークをとる。
カッ、カッ、カッ。
『殿方は( )なので、机にむかった』
止め跳ねが整った模範的板書だ。
「この空欄に当てはまる語句を想像し、20文字程度で答えましょう。 いいですね」
「「はい!」」
全員がお腹に力をいれ、間髪入れずに返事をする。 少しでも集中力が足りていないと見なされれば、罰であったり、指導基準があがったり、有形無形にハードルがつけたされる。 ただでさえ不条理な学園なのだから、少しでも従順にしなくちゃいけないことは特に身に染みている。
「11番」
「……! はいっ」
最初の1人があてられる緊張感は独特だ。 12号教官は出席番号順が多いので、私の『29番』までは大分ある。 私同様、番号が離れている生徒からは微かに安堵の吐息がこぼれた。 いきなり指名されて肩を震わせる11番とは対照的だ。
「括弧(かっこ)内の語句を含め、文章全体を読み上げましょうね」
「はい! とっ、殿方は『品行方正で自己鍛錬に余念がない方々』なので、机にむかった、です」
「……字足らず」
ビシリ、ビシリ、ビシリ。
膨らみかけた乳房に刻まれる、3本の痕跡。
「あのねえ。 20文字程度っていわれたら、19文字から21文字だと、何度も教えてあげたでしょう。 17文字で済まそうなんて、はしたないにも程があります」
「っぐ、も、申し訳ありませんっ」
「やり直し」
「はい! 殿方はっ、『品行方正で自己鍛錬に余念がない立派な方』なのでっ、机にむかった、です」
「……工夫がない」
ビッシィッ。
「ぎゃうっ!」
大きく鞭を振りかぶった勢いそのままに振り下ろす。 教官の鞭は先端に錘が仕込んであり、分銅の要領で身体に巻きつく。 正面から飛んできた鞭は肩口から背中に廻り、お尻の割れ目を通って股間を経由し、鞭端はちょうど陰唇を弾く。 大陰唇は言わずもがな、鞭が触れた部分すべてが真っ赤になり、やがて薄い蚯蚓(みみず)腫れとなって浮き上がる。 鞭捌きに長けた教官だからこそできる、全身の急所を網羅した一本線だ。
「ひっ、つっ、うくっ……」
「殿方が『品行方正』だとか『立派』だとか、そんなことは当たり前でしょう。 わざわざ文章に添える価値があると思っているんですか。 反応が遅い、正常な思考もできない、自分の価値をわかっていない。 だから貴方はクズなんです」
「は、はいっ。 わ、私はさもしいチツマンコの事しか考えられない、変態のクズですっ。 申し訳ありませんっ」
痛みに身体を捩らせ、涙声で叫ぶ11番に、
「もう結構。 廊下で自分を戒めなさい」
淡々と告げる12号教官。 自分で戒めるとは、『教官の戒めを自分で上塗りする』ことであり、この場合は『鞭で打たれた部分を、再度自分で打ちなおす』ことだ。
「はいっ、失礼します!」
直立したまま太腿を水平にあげ、廊下へでる11番。 ドアを潜って姿が見えなくなると、すぐに廊下から乾いた音が響いてきた。
パァン、パァン、パァン、パァン。
一発一発力を込めて、平手で自分の体を叩いているのだ。 音から察するに、さしずめお尻をぶっているんだろう。 続いて脇腹、乳房、股間へ手を伸ばし、鞭の線条痕に重なるように、赤い手形が肌を染める様子が目に浮かぶ。