コレクション-4
「Cocoちゃんのほうこそ。1年半も彼氏がいないなんて、もったいない」
「出会いとか、なくて……」
「そうなんだ。俺がもしCocoちゃんと同じ会社にいたら、Cocoちゃんが入社したその日に食事に誘っちゃいそうだけど」
「ふふ。ありがとうございます。お世辞でもうれしい」
「ホントだよ。じゃあ、これから俺の家に来ない?」
「え?」
切れ長の目がわたしを見つめる。
どきりとした。
「さっき言ってた趣味の写真。Cocoちゃんを見てたら撮りたくなっちゃって。ポートレートってやつ。よかったら被写体になってくれないかな?」
まるで催眠術にでもかかってしまったかのように、わたしは無意識のうちにはいと返事をしていた。
アイスコーヒーの氷がからんと音をたてた。
「この部屋、写真を撮る用の部屋として使ってるんだ」
そう言って案内された部屋のソファに腰掛けて、カメラを扱うハヤトさんを眺めていた。
部屋の隅には大きな水槽が置かれ、色鮮やかな熱帯魚が泳いでいる。
趣味のいい部屋だと思った。
このソファもテーブルも、質の良いものだと一目見てわかった。
「すごく大きなカメラで写真を撮るんですね」
「やっぱり撮るからには綺麗な写真を撮りたいからね」
不思議と危険な感じはしなかった。
ハヤトさんがあまりにも軽やかで、そしていつもSNS上でやり取りしているときと同じように優しく丁寧に接してくれているからかもしれない。
「彼女さんの写真も撮っていたんですか?」
「うん。別れたらすぐにぜんぶ処分したけどね」
こっちを向いて、リラックスして──そう言いながらハヤトさんがファインダーを覗く。
思ったよりも小さな音でシャッターが落ちる。
こんなふうに写真を撮られることは初めてで、わたしは緊張しながらシャッターの音を聞いた。
「俺ね、コレクションするのがすごく好きで。いいなと思ったものは納得がいくまで集めないと気が済まなくてさぁ」
「そうなんですね?」
「そう。こうやって気に入ったひとを撮っていると、そのひとのすべての表情を撮りたくなる。──今の驚いた顔、いいよ。すごく自然体でいい表情だった。Cocoちゃんも俺のお気に入り。そのソファも座り心地を気に入って買ったんだ。ソファを買ったらそれに似合うテーブルが欲しくなってね。今こうやってお気に入りのものとひとを撮ることができて、すごく気分がいい」
ハヤトさんがソファに片膝をついて、わたしを見下ろすように撮る。
わたしはドキドキしながら、ハヤトさんを見上げた。
「綺麗な色のブラウスだね。不思議な色。よく似合ってる」
わたしは急に気恥ずかしくなって目を伏せた。シャッターが落ちる。
腰のあたりがゾクゾクとした。
まるでファインダー越しに裸を覗かれているかのような妙な気持ちになった。