かのかな 1日目-3
「まあ、考えといてあげるわ」
「おい! そりゃねえだろ!」
「なーに? 今すぐ、ご近所さまにバラ撒かれたい?」
ぐはっ……
そ、それは勘弁してください。
がっくりとうなだれる俺を見て、香奈が勝ち誇ったように笑った。
「ようやく思い出したみたいね。アンタはわたしの奴隷なの。神様や仏様が反対して
も、わたしが奴隷と言ったら奴隷なのよ」
うう、神や仏に聞かせてやりたいよ、その言葉。絶対、地獄に落ちるぞ。
「じゃあ、さっそく奴隷に命令ね」
その言葉にドキッとしたね。
なんせ、相手は香奈だ。どんな無理難題をふっかけてくるかわからない。
子供の頃、5分でアイスを買って来いなんて命令されて、それを守れなかったら、
おしおきだとか言われて、近所の獰猛な犬をけしかけられたりしたからな……
良く今まで無事に生きてこれたと思うよ、ホント。
「ビールがなくなったから、買ってきて」
「はい……?」
「聞こえなかった? ビールがなくなったの。今夜、飲む分がないの。わかる?」
そういや、昨日の晩、オフクロと2人でかなり飲んでたような……?
我家で酒を飲むのはオフクロだけだ。オヤジは一滴も酒を飲まない。まあ、俺も
時々、隠れてこっそりと飲むけどさ。
香奈があんなに大酒飲みとは思ってもいなかった。こりゃ、オフクロの家系はかな
りの酒豪と見たね。
「とりあえず、1ケースでいいから」
「え? 1ケースって?」
「1ケースったら、段ボール1箱に決まってるでしょ。そんなこともわからないの
?」
いや、それぐらいわかるけど……
「いや、1度にそんなに買わなくてもいいんじゃないかな? こまめに買えばいいん
だし」
「はあ? なに言ってんの? こまめに買うに決まってるでしょ? 1ケースなんて
3日でなくなるわよ」
って、おい! ちょっと待て!
どれだけ飲むつもりなんだ!?
1ケースったら、あれだぞ? 24本くらい入ってるんだぞ!?
それを3日って……1日、平均8本は飲むつもりかよッ?
と、とんでもねえ……
驚くね。それだけ飲んで、酒太りしないってことが。
て言うか、こいつは酒だけでできてるのか?
「はいはい。さっさと行ってくる」
「いや、その前にお金……」
「なに? わたしに出せと?」
「さすがに、今月は小遣いピンチだから、出したくても出せないし……」
「なんとかしなさいよ。男でしょー?」
いや、男とか関係ないし、この場合。
ってか、無理だし。
俺が黙っていると、香奈は大げさにため息をついて、財布を放り投げた。
「そんな情けない顔しないでよね。冗談に決まってるでしょ?」
あの、まったく冗談には聞こえなかったんですけど……
「それ、叔母さんから預かった生活費だから、なくさないようにね。あ、あと、わた
し今夜は枝豆と冷やっこでイイから。ついでに買ってきてね」
うを、すごい親父臭い注文だぞ?
容姿とのギャップ凄すぎ……
「てゆーか、生活費って? 夕メシの材料、買ってこいってことかよ?」
「そーよ。なんだと思ったの?」
「ちょっと待て。メシって、誰が作るんだよ?」
「アンタに決まってるでしょ? なんで、わたしが作らなきゃいけないのよ」
あっさりと香奈は言い放った。