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かのかな
【コメディ 恋愛小説】

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かのかな 1日目-2

 うーわ、すっごいムカつくんですけど!?
 今、生まれて初めて殺意というものを抱いたような気がする。
「てめえ! どういうつもりだ! 誰が奴隷だ!? 俺は奴隷なんかじゃねえ!」
 もう、ブチ切れたね。
 美人だと思って、甘くしてたらつけあがりやがって!
 オヤジとオフクロがいない今、この家で誰がトップか教えてやる!
「んー?」
 香奈は缶ビールを片手に振り返った。
 目が冷たい。美人なだけに、そういう目をされると、なんだか怖い。
 いやいや、気圧されてどうする、俺。
 ここはガツン! と言ってやらねば。
「あのな、ここは俺の家なの。オヤジとオフクロがいない間は、俺が偉いんだよ」
「ふーん。俺の家、ねえ……」
 低く吐き捨てて、香奈はビールを一気に飲み干した。
 な、なんだかヤバそうな雰囲気なんですけど……
「自分の食い扶持も稼いだことのない無駄飯食らいが良く言うね。そういうことは、
自分のメシ代くらい、自分で稼げるようになってから言ってみな」
 そう言って香奈は空になった缶を放り投げた。缶は俺の腹に当たり、床に転がっ
た。
「それにね。アンタ、なんか勘違いしてない?」
「か、勘違い?」
「そう。アンタ、自分の立場、忘れてない?」
 立場? 立場ってなに?
 訳がわからないまま呆然としていると、香奈がジーンズのポケットから数枚の写真
を取り出した。
「これ、なーんだ?」
 掲げられた写真を見た俺は、本当に心臓が止まるかと思ったね。
 その写真には、裸で木に逆さ吊りされた男の子や、股間をザリガニに挟まれて大泣
きする男の子、服の中に大量のおたまじゃくしを入れられて泣き喚く男の子が写って
いた。
 つまり、幼い頃から香奈にされてきた数々のイジメの写真なわけで、もちろん、撮
影者は香奈本人だったりする。
「そ、それは……」
「この頃は、アンタも可愛かったよね。いっつも、わたしのあとくっついてきてさ。
いじめられても、いじめられても、香奈ねーちゃん、香奈ねーちゃんって言ってたよ
ね。もしかして、アンタってマゾ?」
 そう言ってケラケラと笑う香奈。
「か、返せよ!」
「なんで? これ、わたしのだよ?」
 香奈は写真をヒラヒラさせ、満面の笑みを浮かべる。スゴイ魅力的な笑顔なんだけ
ど、今の俺には悪魔の笑いにしか見えない。
「アンタ、確かS高校だったよね?」
 そしてニンマリと笑う香奈。
 なんだか嫌な予感が……
「この写真、学校にバラ撒いたら、どうなるんだろうね?」
「や、やめろよ!」
 思わず俺は叫んでいた。
 冗談じゃない。
 って言うか、この女なら本気でやりかねない。だって、あの香奈だ。
 ををう。今まで容姿に騙されていた自分が情けない。
 そうだ。香奈ってこういう奴なんだ。昔からなにも変わってないじゃないか。
「やめろ? なに、命令?」
 そう言って、香奈は意味深に俺を見た。
「や、やめてください。お願いします」
「香奈さま、でしょ?」
「お願いします、香奈……さま……」
 うう、屈辱だ。
 この屈辱は忘れないからな。


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