『越えるモノ達〜始まり〜』-2
妖魔を退治するという同じ目的はもっていても、殆どの場合、エイドと法術士は別々で動いている。双方が友好的ではないという事もあるが、エイドの存在は知っていても、実際にどんな人物がそれを行っているかを把握している法術士が少ない為でもあった(認めていないという事も大きいが)。それでも困難な任務の時には協力する事もある。だからこそ法術士と繋がっている者がいたとしても構わないのでは?カインはそう考えていた。
「確かに。妖魔退治の為の繋がりなら別に構わないの。でもそこに別の目的があったら?」
「別の目的?」
「そう。それが大陸全土を巻き込むかもしれないのよ」
なに冗談を、と思うのだが綾乃の真剣な眼差しから、冗談を言ってるのではない事がわかる。しかし…どうも話が見えてこない。怪訝そうな表情のカインに隣で黙っていた頼蔵が口を開く「簡単に言えば宋周国が戦争を…いや侵略だな。そんな事を企んでいるって事だ。」
「侵略って。更來国とディードラ連邦の二大国も相手にするのか?それに何故そこに法術士と俺達が関係するんだ?それに二大国ならそんな情報すでに掴んでいるだろ?」 普通に考えれば当たり前の事だ。自分達が知っている事など二大国が知らないはずがない。
「その通りだ。しかし今はカルナス協定で怪しいから、だけでは手は出せない。確証がなければな。それで更來国の方から依頼がきた。しかし内容上あまりおおっぴらには動けない。」
「それでお前と綾乃が隠密で動いているって事か。」「そうだ。そして先日、一部のエイドと宋周国の法術士が絡んでいる事までは掴んだ。」
「でも一部の人間が繋がっているのは以前からもあったろ?」
そこへ少し呆れ顔の綾乃が割り込んできた
「さっきも言ったでしょ?今までのとは違う目的を持っているの。」
「具体的に言えよ。どんな目的だ?それと俺を呼んだ理由も教えてくれよ」
しかし綾乃は神妙な表情になり、その先の言葉がなかなか口から出てこない。しばしの沈黙の後、ようやく意を決したように一語づつ言葉を紡ぐように口を開いた
「闇神ダリス…は知っているわね…?」
それは大陸創世期にいたとされる四大神の一人。その名を知らぬ者は居るはずもない。
「ああ。お伽話に出てくる神様だな」
実際、四大神を実在したと信じている者は少ない。何千年も昔の話だし、その痕跡も少ない。見つかっているものも本物かどうか疑わしげだ。ただその手の宗教は存在しているが…
「そのダリスを復活させようというのが彼らの目的のようなの。」
カインは呆気にとられる。
「何を言うかと思えば。そんな戯言を聞かせる為に俺を呼んだのかよ!」
勢いよく立ち上がると二人を見据える。そんなカインに頼蔵は懐から一冊の小さな本を出して渡した。
「報告書?これがなんかあるのか?」
「それを見て何か気にならないか?」
言われてカインは何枚かめくる。気になる事と言えば最近、特に一年程前から妖魔が増えている事。
頼蔵が問い掛ける
「その妖魔の増えかた、異常と思わないか?俺達はまだダリスの復活の確証は掴んだ訳ではない…が、簡単に否定するのも危険だ。」言い終えるとカインにもう一度座るように目配せする。それに従うカイン。
「そして俺を呼んだ…か。で、次はどう動くのか決めているのか?」
その言葉を聞いた綾乃の表情が明るくなる。
「カイン、やってくれるのね?」
「ああ。期待に応えれるかはわからんけどな」
そう言いながらニッと笑いグッと親指を立てる。
宋周国の帝都にある皇帝の城の地下
顔も隠れるような黒いローブに身を包んだ男に白地に朱のラインの入った法衣を着た男が近付く。
法衣の男が一礼してから声をかける
「ローシュ殿。例の件はいかほどかな?」
ローシュと呼ばれた男は視線を法衣の男に向けて抑揚のない声で応える
「全て順調ですよ。風見殿。」
「しかしですな、闇神ダリスは未だ姿を顕さない。それに更來国やディードラ連邦も…」
ローシュは風見の言葉を手で遮ると一礼してから静かに立ち去っていく。その後を風見は追うとしたが、彼の雰囲気に躊躇ってしまった。
「相変わらず不気味な男だ。陛下もあんな男を重用するとは何をお考えなのか!」
そう悪態つきながら、踵をかえして立ち去る。