最初の日-1
ー とにかくセックスだけはしようよ。会いたいな。あたしもお願いあるし。
ー 幾らいるの?
ー 分かんない。いくらならいい (笑) ?
五十になる独身の和岐多儘(わきた じん)は、十二歳の少女といわゆる援助交際をしようとしていた。携帯電話のアプリで偶然ふたりは知り合った。積極的だったのは少女のほうだったので、和岐多は話の裏を勘ぐったものだが、和岐多がそれとなく素性を探る質問をしても、女の子らしいと言うか、無邪気な飾らない答えばかりだったため、会ってみようと事は運んだのだった。
ラウラと少女は名を明かした。顔は既にメールで互いに知っていた。栗色の髪をツインテールにした細身のかわいい子だった。和岐多は自分の歳を思うと自信がなくて、この少女には異常なところが必ずあるに違いないと決めてかかっていた。それでも、少女と知り合え、あまつさえ抱くことができる喜びに抗うことが出来ないのだった。
会ったラウラの言うには、自分は母親を更生させたく、それにお金と男の協力がいるとのことだった。
「僕は全然お母さんに興味はないよ。」
和岐多ははっきり断った。以前、歳上の未亡人に付きまとわれた経験のある和岐多は、大人の面倒な色恋沙汰にほとほと懲りていたのである。
「うん。そんなこと考えてない。ママもそんな気ないし。どこでしようか。」
行き先は当然、和岐多のマンションに限られた。ホテルに行くわけにもいかず、ラウラの家ではラウラが疑われてこちらに足が付きそうである。腹の据わって見えるラウラだが、初めて会った大人と二人でいるのが怖くないのだろうかと和岐多は不思議に感じた。
「経験は?」
「ない。あるわけないよ。」
「怖くないのか。」
「冷や汗でびっしょりだよ。」
部屋に入るとラウラはすぐ脱ぎだした。
「何か飲まない?」
「そんなの後でいいよ。先にやっちゃおうよ。」
「前払いか。」
「それも後でいいよ。」
「俺はシャワーを浴びてくる。」
「あたしは後にする。どうせ、汚れるんでしょ。トイレどっち?」
和岐多は勤めていた大学を先月辞めた。好きでしている筈の仕事だったが、人生はますます無味乾燥に感じられるばかりだった。長年にわたる首と背中の痛みも抜けなかった。
何かが決定的に欠けていた。夏のプール、子供のころ見た漫画やアニメ、思春期前の女の子。これらにのみ、和岐多は心の解放と彩りとを感じることができた。
けれども少女だけは届かぬ夢に留まっていた。自分の心の殺風景は少女にさえ触れれば満たされるに違いないと思われた。高校生ではいけない。自分の渇きはその頃もう始まっていたのだから。幼児でもいけない。自分を大人にさせてしまうから。
その少女がこれから手に入るのだ。社会的な罰則など、人生に蘇りを与えるこの価値に比べたらものの数ではない。和岐多は腰にタオルを巻いて浴室を出た。