主役不在U〜主役健在〜-6
「西園寺、次の角を曲がったら廊下の突き当たりで奴らを迎え撃つよ」
「無理無理無理、無理ですってぇ」
「どのみち戦わないと無理っ!」
亜紀はそう言うと壁を背にして振り返り、そのままモップの柄を振り回して一人目のマッチョガンジーを薙ぎ払った。
戦闘開始を悟ったミツルも慌てて懐からハチマキを取り出して頭に巻いた。
「絶対、死なない、絶対、死なない……」
口の中で反芻するミツル。
「絶対ぃ死ななぁい!!」
ミツルは意を決し、咆吼をあげながら筋肉老人の群れに飛び込んだ。
亜紀もそれに呼応し、手近なガンジーを叩き伏せる。
「本に戻すのはこいつらを全員気絶させてから。今はとにかく戦闘に集中してっ!」
亜紀の言葉が耳に届いているのかどうか、死なないと思い込んでいるミツルは怯む事なく相手に殴りかかる。
アドレナリンが沸騰し、視界が狭くなるのを感じながらも、ミツルは無我夢中で目の前の敵に拳を叩きつけた。
仲間が打ち倒され、ガンジー達も更に興奮して襲い掛かってくるが、亜紀も必死にそれらを薙ぎ払った。
何度殴り倒してもガンジーは襲いかかってくる。
疲弊しながらも、繰り返し相手を殴り倒す亜紀とミツル。
何度も同じことが繰り返され、次第にガンジーの攻撃も弱くなっていった。
そして世が明ける頃、累々と積まれたマッチョガンジーの体の上に、亜紀とミツルは互いに背中を預けて座り込んでいた。
荒い息を整えながら、ミツルは亜紀に言った。
「……先輩」
「……なに?」
「死ななければ良いってもんじゃないですよ」
ミツルの言葉に、力なく笑う亜紀。
ともあれ、マッチョガンジー軍団を何とか降した亜紀とミツルは、気を失いかけながらも全員を本に戻した。
勿論、本に戻ったガンジーはマッチョなままだったが、致し方のないことである。
そして人質……もとい獣質だったウサギはすっかり忘れ去られていたが、その日の午後に亜紀が思い出して回収に向かった。
縛られたままだったウサギは悪口雑言を並べ立てたが、疲れて機嫌の悪かった亜紀は問答無用でウサギを沈黙させた。
「ところで先輩」
午後の図書館で机に臥せったミツルは貸出カウンターの向こうでぐったりしている亜紀に語りかけた。
「ところで、先輩。アリスの本を処分すれば、挿絵の連中は出てこなくなるんじゃないんですか?」
「そんな簡単な事じゃないのよ。……まあ、その内、西園寺にも教えてあげるわ」
言い終わらないうちに、徹夜で格闘した亜紀は小さな寝息を立てて眠ってしまった。
そして疲れ果てているのはミツルも同じで、小さな疑問は睡魔にかき消され、心地よい眠りの中で忘れ去られていった。
終。