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プラネタリウム
【ラブコメ 官能小説】

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L-4

バンドは好き。
これだけしか取り柄がないとさえ思って毎日毎日悩んでるんだ。
今の仕事もおざなりにしたくない…でもバンドも同じだ。
「みんなに言いたいことがあるの」
陽向は俯いて深呼吸した。
3人は黙った。
「洋平がニコニコしながら遅刻して新しいエフェクター持ってきた時も、大介が展開ミスした時も、海斗がちゃんと曲覚えてこなかった時も、あたしは茶々入れたけど…。それ以上にあたしは何も出来てないの」
「違う…陽向は…」
「黙って聞いててよ!」
大介の言葉を思い切り遮る。
「あたしは大介が作った曲に合わせて歌詞を書いて、みんながそれを良いって言ってくれて、ただそれだけで嬉しかったし有頂天になってた。でもそれが本当なのかどうなのか分かんないってずっと思ってた。今もそう。あたしが言いたいことばかり書いた歌詞なんてみんなの人生にはあり得ないことだし共感できることでもない。なのにみんなはどうしてそんなに楽しんで演奏できるの?あたしには言葉を並べることしかできないのに、なんでそれに合わせて世界を創れるの?…それでいいの?」
あたしが歌ってていいの?
その言葉はさすがに伏せた。
けれど、本当の本心だった。
こんなとこで泣きたくないけど涙が頬を伝う。
「陽向」
洋平の声だ。
「俺らは陽向が歌ってくれなきゃダメなんだよ。知らないかもだけど、俺らさぁ、結構陽向抜きで飲み行ったりしてんのね」
「うそっ?!」
「うわぁ…ゴメン……。すげー忙しそうだし五十嵐もいるしさ、練習以外で連れ出すのとか、五十嵐に怒られそーだし…」
「湊とは全然時間合わないからむしろ呼んでほしい!」
「あはははっ!!!マジかよ!じゃーこれからはそーする。…んでね、その時にいつもバンドの話になるんだ。俺らHi wayは陽向じゃなきゃ背追っていけないって」
「そーそー」と海斗はメガネを上げながら言った。
「俺ら、陽向以外の人間が歌ったら逃げ出すかも」
「なんでよ…」
「陽向の書く詞がいつまでも頭から離れないんだ。朝起きて俺が一番に聴く音ってなんだと思う?」
「わかんないよ…」
陽向が涙を流しながら言うと海斗は「『It's』に決まってんの」と笑った。
「人間らしいんだよ、あの歌詞。ホラ、光を”眩しいナンチャラ”とか、嫌いなものを”一歩前で見るナンチャラ”とかわけわからん言葉の言い回しみたいなのを使わないあの純情な歌詞が俺はすげーお気に入りなの。陽向の真っ直ぐな気持ちが出てるし、陽向が思ってることに俺はずっとついて行きたいと思ってるし、そう思わせてくれる背中がいつでもライブにあるから、狂わずにはいられないよね」
海斗はメガネを取ってベースを弾くマネをした。
「お前、相当悩んでたの?」
大介が隣で笑う。
「らしくないよな。風間陽向の悩んでる姿とか」
「なんでっ…」
「ちょーアホで能天気で、チビって言われるだけでキレて俺のこと蹴飛ばしたりしてさー」
「はぁ?」
「そーゆー奴なのに。お前は。なんでこんなちっちぇえコトで泣いてんだよ」
「それは…」
「どーせ自分を卑下して俺らのコト考えてんだろーけど。今の話聞いたらそーだけど。…でもさ、言わせてもらうけどさ、お前自分のこと見下しすぎなんだよ。お前のことを羨ましがってる奴はたくさんいる。俺らにない感情とか、感性とか、人を惹きつける才能とか…羨ましいくらいなんだよ。そんなんあったら俺はすげー天狗になってる。だけどお前はそうじゃない。そーやってもっと高いトコを目指せる力を持ってんだよ。…だから、俺らは陽向がいなきゃダメなんだよ。俺らがいるのは、お前がいるからなんだよ」
大介はそこまで言って「俺らにはお前が必要なんだ」と言った。
「そーそー。俺らがしっぽり飲みに行くのも、あの歌詞に合う音ってなんだろうって考える時でもあったわけさ。そんで出来たエフェクターが、遅刻してった時のやつ!陽向には遅刻をすげー言われたけどー!」
洋平は楽しそうに笑いながら語った。
「陽向、わかる?」
「…なにが」
陽向は海斗の言葉に涙を拭いながら言った。
「俺らには陽向が必要」
「……」
「陽向には?」
「あたしには……」
思った事を口にすればいい。
「あたしには、みんなが必要…」
また、眼から何かが零れ落ちる。
「陽向……。失敗しても、成功してもこの試練は乗り切らなきゃなんないんだ」
「…え?」
陽向は大介の一言に冷静になった。
「俺ら、今日の話はもともと聞いてたんだ。後は陽向の答えだけだった」
「え…え…。あたし、ハメられてたの?!」
「ばーか。言い方悪いぞ」
「だって…」
「今日呼ばせたのも、ここ来たのも、全部お前の気持ち聞くためだった。俺らはお前と旅に出たい」
「……」
「女の子だしね。五十嵐もいるし」
「湊は関係ない」
「ネックになる奴はいる。けど、俺らはみんなで旅したいと思ってる。たった10ヶ所。されど10ヶ所」
「え…でもみんな仕事…」
「ライブは土曜にしてって佐藤さんに頼んである。了解してくれたよ。だから、土曜に現地向かえば間に合う。いくら次の日が仕事だって新幹線でも最終で帰れば問題ない」
「自費…?」
「そこは交渉中」
陽向は目まぐるしい展開についていけなかった。
「てか、あたしになんも連絡無しにそこまで決めてたの?!」
「それは悪いと思ってる」
大介は言った。
「でもお前は無理してでも絶対に断らないし、みんなに聞いてからにするって言うと思った。一番心配なのはそこ。仕事が不定期で読めないからお前の気持ち確かめたくて…。だから佐藤さんから直々に電話してもらったんだよ」
そーゆーことか。
全てが繋がった。
いつも連絡は大介に行くのにおかしいと思ったんだ。
しかもだいぶ濁されたし。
でも、みんなあたしのこと考えてくれてたんだね…。


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