K-8
5月半ば。
始めてのレコーディング。
休みでスタジオに行った時佐藤が笑顔で迎えてくれた。
「おー、陽向ちゃん一番乗り」
「あはは、よろしくお願いします」
「今日レコーディングって聞いてるから。…こっちの部屋でお願い」
案内された部屋は、ソファーや灰皿、冷蔵庫なんかも揃っている。
「Hiwayがレコーディングしてくれるなんて、ちょー嬉しいよ!あ、お菓子あるから食べて食べて!」
佐藤は横にあったダンボールから大量のお菓子を取り出した。
それを、部屋の中心にあるテーブルの上にある皿に盛る。
目の前はガラス張りの…多分、スタジオだ。
「あっ…ありがとうございます…」
なに、このVIP対応…。
と思ったのも束の間。
入り口から洋平が入ってきた。
「え…なにこれ」
「よーちゃん!お誕生日おめでとう!」
「はぁ?!」
陽向がケラケラ笑ったと同時に海斗が「なにこれ?!」と言いながら入ってきた。
「あはははは!」
「陽向、笑ってんじゃねーよ!全然わかんねーこの状況」
「あたしも分かんないよ」
「つーか、俺、誕生日10月だし!」
洋平は陽向の耳たぶをつまんで、いーっといった顔をして「うそだよー」と笑った。
「かわいーな、陽向は」
洋平は陽向の頭を撫でてギターケースとエフェクターの入ったケースを床に置いて笑った。
髪の毛がだいぶ明るくなっている。
ショートとはいえ、根元は黒、その先は茶色、はたまたその先は金色だ。
グラデーションのレベルにも程がある。
「よーちゃん。その髪の毛、師匠に怒られないの?」
「へーきへーき!3年も経ちゃ実力も買われるもんよ」
洋平は筋肉質な腕を見せて拳を掌で叩いて笑った。
この前カフェで偶然出会った時に言っていた。
「俺も今年で3年目になるけど…これでいーのかなぁって思うコト、いっぱいあるわけ」
「例えば?」
「そりゃ、この職業でいーのかな?なんて思ったり。でも、師匠は俺のコト気に入ってくれてるし、なんなら会社入って技術も学べって器用なコトも求められんだ」
「よーちゃんは、そーゆーの興味あるの?」
「全然…。俺がやりたいのは、もっとデカイこと。俺、繊細でも器用でもないから。俺がやりたいのは、周りを見つつ、そのベースを考えること。建築もそーなんだけどね…。でも俺はその根本にいたいんだ。何かを創り出す人のその前にいたい」
「なんか難しい話だけど…」
「よーちゃん最近頑張ってるもんね。この前話してて目がキラキラしてたよ」
「んなこたねぇーだろ。ってか海斗は?順調なわけ?仕事」
「今はちょー忙しいけど。…でも、楽しい事があるならなんでも乗り切れる。そんな仲間がいる。そーゆーことだろ?こいつも、そう思ってる」
海斗はケースからベースを出して愛おしそうに撫でた。
「今日だけじゃない。これからもだ。…どんなに辛くたって、俺らは離れない」
海斗は「だろ?」と言って陽向を見た。
「うん。あたしたちは、どこでもやってける。挫折したって、嫌だと思っても仲間がいたら、信じれるものがあるなら、いつでもどこでも、やってける」
「いーコト言うな、海斗は。最高の仲間だ」
陽向も「だね」と言って、いつもの掛け声…『It's time to go glad』をし、グーパンをしていると、大介が息を切らしてドアを開けた。
びっくりしてその方向を見る。
「ゴメン……その…バイトで……っあ……」
だいぶ息を切らしており、ドアノブを掴んだまま横たわっている。
「大介」
「…ごめ。ちょ…」
「それで叩けんなら何も言わねーけどさぁ」
「ちょ…まって……」
「大介。ちょっと待ってとか…時間決まってんだよ?!そんなんも守れないやつなんて御免だ!!!」
洋平が大介の腕を握る。
「マジでゴメン……店長とゴタゴタがあって…。マジで悪いと思ってる…」
「あっそ。んなの関係ねーし」
洋平の冷たい視線を横目に、大介が「てか何これ」と呟いた。
みんな同じ反応をしたので爆笑の渦に巻き込まれる。
「ぜってー言うと思った!」
「え…洋平すっげー怒ってたし……あ、なんかマジでよく分かんないけど遅れてごめん…」
大介が深々と謝る。
「ばーか、誰も怒っちゃいねーっつの。ビックリしたろ?」
「マジでビビったよ。洋平がそんなキレるの初めてだし」
「ちげーよ!この対応だよ。レコーディングするっつって、コレだぜ?!こんないいスタジオないっしょ」
「確かにそーだな。佐藤さんにお礼言わねーと…」
大介はスティックケースをテーブルに置いて外に出ようとした。
すると、タイミング良く佐藤が入ってきた。