K-6
エレベーターのボタンを押す。
ここは7階だ。
こんな時に限ってエレベーターは1階から6階を彷徨っている。
「…風間」
瀬戸に腕を掴まれる。
「うるさいな!もう、どっか行ってよ!」
掴まれた腕を振り払う。
なかなか来ないエレベーターに嫌気が差し、陽向は階段へと繋がるドアを開けて逃げるように走った。
生温い風が頬を掠める。
瀬戸もついてくる。
「おい!」
カンカンカン…と鉄の音が耳にこだまし、同時に瀬戸の声も聞こえてくる。
…酔っ払った足が上手く働かない。
そのまま階段から落ちる……そう思った時、瀬戸が思い切り腕を引っ張った。
惰性でそのまま瀬戸の胸に頭をぶつけた。
陽向は瀬戸のシャツを握りしめて、わあわあ泣いた。
瀬戸は何も言わなかった。
触れもしないし、何か言葉をかけるわけでもない。
ただ、黙っていた。
「なんで……」
陽向は目の前にある胸を思い切り叩いた。
「なんでみんなそう言うの…」
「風間…」
「あたしは、みんなと一緒に音楽がやりたいのに…なんでみんなもったいないとか言うの?!」
「……」
「あたしが今こうしていられるのはみんながいるからなのに、なんでみんなのこと否定するの?!あたしはすごくなんかない!みんながあたしをそうさせてくれてるの!だから……そんなこと言わないでよ…」
「…ごめん。悪かったよ」
陽向は「もう、いいです」と言って瀬戸から離れると、静かに階段を降りた。
瀬戸は追ってこなかった。
泣きわめいて勝手に帰って……社会人としてありえないと思う。
でも、それほど傷付いたのだ。
帰り道、また泣きなくなり、シクシク泣きながら夜道を歩いた。
お酒のせいかな……それとも疲れているのか…。
ここ最近、仕事が休みの時は全部といっていいほどスタジオだ。
そんな過酷な生活も、大介の一言から始まった。
夜勤明けて新幹線に乗って一泊してライブ、最終の新幹線で戻ってまた仕事…。
そんな日々が続いている。
今日は帰って寝て、休みだけど昼には起きてまたスタジオ。
しかもレコーディング。
こんなんじゃやってけないよ…絶対声出ない。
夜まで待ってもらいたい…。
フラフラしながら家に着いたのは5時。
鍵を開けて入り、ベッドルームに行くと湊がうつ伏せで眠っていた。
そのままドサリと横になる。
アラームはしっかりかけた。
「陽向…?いま、かえり…?」
「うん、疲れたから寝るね」
「飲んでたんか…」
「ちょっとね」
「…そっか」
湊はそう言って陽向の頬に触れた。
「やらかい…」
「湊もお疲れ様…」
「ん」
陽向は湊の手を握り締め、一瞬で眠りに落ちた。