窓際の憂鬱-5
それなのに私の交わす言葉とはぎこちないのだった。
「あの・・・」
彼女は黙って聞き入れた。
不思議な人だった。彼女の表情は言葉を必要としない。
「どうやったら、恋人できますか?」
「恋人!?・・・どうかしらね。」
あなたにはたくさんの恋人がいるじゃない?と危うく言いかけた。
私だって知っているのだ。彼らは恋人じゃないって事ぐらい。
「大丈夫よ。きっとできる・・・」
私は顔を覗き込まれて、思わず目を背けてしまった。
なんてくだらない質問を私はしてしまったのだろう。
「あの・・・」
今度は窓際から声がした。
ゆっくりと立ち上がり、彼女はその声の方に歩み寄った。
「ちょっと聞いたんですが・・・」
「・・・のところに」
そんな声がちらっと耳についたけど、彼女の受け答えはほとんど聞こえてはこない。
ふたりはしばらく窓を挟んで何か話合っていたが私はその顔に見覚えがあった。
中学の同級生で羽田という男子だった。
高校はどこに進学したのか知らないけど、丸坊主に頭を刈っていたから分からなかったのだ。
向こうも私を見て、また二言三言なにか話してから帰っていった。
だけど、あの様子じゃ私に気づいていないかも知れない。
たとえばの話ではあるが、彼女にプロポーズに来て来客があったので出直したといった風にも見えた。
「あぁ、そろそろ帰るわ。」
「そう・・・」
彼女は笑っていた。
今までも彼女が私を見る目は笑っていたけど、笑っていた気がしてたのかも知れない。
なぜならば、彼女の笑った顔を見たのはこれが最初で最後だったような気がするからだ。
それ以前にこんな彼女の笑顔がどうしても記憶の中に見つからない。
「彼女にプロポーズ」・・・私はこの時に薄々気がついていたと思う。
彼女にプロポーズをする男性はいない。
みんな彼女とセックスがしたいだけなのだ。
セックスするために彼女は窓辺にいた。カーテンが閉まってる時、彼女は誰かとセックスしてる。
セックスして、彼女は彼らからお金をもらっていたのだろう。
「いい町ね。この町は好きよ。」
彼女がここを去ってしまうと言った日に最後に聞いた言葉だった。
これからどこに行って、どんな生活をしていくのか私にはとても聞けなかった。
だけど、私はその日まで彼女の事が好きで本当に彼女のお友達でいたいと思ってた事は真実なのだった。