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悪魔とオタクと冷静男
【コメディ その他小説】

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部長と刺客と冷静男-1

 無理矢理に文学部に入部させられてからだいぶ過ぎたある日。今日もいつものように何をするのでもなくダラダラして過ごすのかと思ったが、めずらしく真面目な雰囲気の長谷部の話から始まった。
 まあ僕としては、部屋の隅にいつの間にかあったサンドバッグを誰が使うのだろうか、ということの方が気になったわけだが。
「――と言うわけだ。くれぐれも注意してくれ」
「……はぁ」
 曰く、費争奪戦も近づいてきた昨今、それに合わせたように各部の間でちらほらと不穏な動きが見られるという。公には被害は無いと言うことだが、生徒間でささやかれている噂では、突然かつ理由不明の退部者が何人も出て部員数が参加規定を下回った部もあるらしい。そしてその本当の理由こそ、他の部からの圧力だったのだというのだ。
 それが本当なのか、本当だとすれば、どんな手段を用いて退部させたのかは解らないが、規定人数ぎりぎりの我が文学部は特に気を付けるように、とのことだった。
「特に栗花落くん、君はお菓子をあげようと言われ知らない相手にホイホイついていく夢を見たから気を付けてくれ」
「……信じるのか? それを」
「何を言うんだい。私の夢は当たると、以前そう言われたよ。……夢の中で」
「信じるのかそれを!?」
 語気を強めても、長谷部はそんなものどこ吹く風だと言わんばかりだった。
 大きなため息をひとつ吐いて思考を冷却。こいつら相手に熱くなっても疲れるだけだ。
 聞かなくてはならないこともあるし。それが解らなければ先の話がすべて無意味になるようなことだ。
「ところで、……部費争奪戦って何だ」
「何って……知らないのかね?」
「ああ、まったく」
「大宅くんは?」
 つばさも知らないのか首を横に振る。
「桜子くんは――」
 ふと隣を見ると、長谷部を無視した遠矢と目があった。
「ああ幸一郎さん、次はどうやって遊びましょうか。ひとり暴露大会なんて楽しいかもしれませんね」
 ひとりで無意味に楽しそうに笑う。頭は大丈夫だろうか?
「取り込み中か……」
 やや疲れたようにつぶやく長谷部に、部内の力関係が見てとれた。部長も大変そうだな。
「で、先輩。結局何なんですか? 頭の悪いいっちーでも解るように教えてください」
 ひと言余計だ阿呆。
「ああ、それは――」
 と、長谷部が説明を始めようとしたとき、今まで黙っていた五十嵐がポツリとつぶやいた。
「……確か前も説明してたよな」
『え?』
 女子三人の声が見事にハモる。その後に、
「――なるほど。いつかはと思っていたが、ついに時系列を整理できなくなったか五十嵐」
 しみじみとした顔で暴言を吐く長谷部。
「この場合はそっとしておいてあげるのが後輩としての優しさでしょうか?」
 失礼すぎる質問を真顔でする遠矢。
「あ、えっと、これはやっぱり、――いっちーの出番じゃないかな!?」
 阿呆面で話がつながっていないつばさ。
 ……バカばっか。
「そんなことはどっかに置いといてな」
 おお、やはり五十嵐は大人だ。
「確か、栗花落が入部した日にもひと通り説明してたぞ? 規定は何人だの起源はこうだのって」
「ふむ。――記憶にあるもの、速やかに挙手」
 しかし今のやりとりから解っていたが、誰ひとりとして手は挙げなかった。
「おいおいおいおい、マジかよ」
「マジだ! よって民主主義にのっとり、先の発言は虚偽報告ということに決定だな。――すなわち無罪で死刑。あるいは皆にジュースをおごりたまえ」
 明らかに後者の方が損害が少ないが、長谷部にとっては等価らしい。すなわち五十嵐の命は五百円を出してもお釣りがくる、と。
「……安い命だな」
 僕のつぶやきは無視された。それも長谷部だけではなく皆に。


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