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悪魔とオタクと冷静男
【コメディ その他小説】

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部長と刺客と冷静男-2

 そして無言が語る。せっかくのチャンス、余計なことは言うなと。お前ら、おごってもらえるのがそんなに魅力的か。
「――おっと、それは違うよ栗花落くん。おごらせるという行為自体に意味があるのさ。限りある金銭を浪費しても、自分は何も得られない。まさしく恐怖、だが見る側から言えばすなわち喜劇だね?」
「……あんた最悪だなと言うか、今僕は声を出してなかったよなっ!?」
 それは違うとか言っていたし、僕の思考に対する返答としか思えない。
 そしてその問いに対する長谷部の返答は、実に簡潔だった。黙って視線をそらし、
「フッ……」
「何だその意味深な笑い方はっ」
 長谷部は笑うだけで答えない。恐いって。
「幸一郎さん、どうやら無謀にも悩んでいるようですので、ためになる熟語をひとつ。――以心伝心」
 一気に醒めた。
 もはやこいつらならどんな突飛なこともできて当然のような気がする。その内あっさりと魔法でも使うのではなかろうか。
「あ、幸一郎さん幸一郎さん」
「……何だよ」
「魔法、使えたら楽しそうですよね?」
「……うわ……っ!」
 このタイミングでこの言葉、この笑顔。本気で恐ろしい。どんな化け物だ――ってこれも筒抜けか!?
 ……っ。
 ……。
 特に反応はない。さすがにそんなことはなかったようだ。
「いっちーってさぁ、にらんだりため息吐いたり怒ったりため息吐いたりビクッてなったり、忙しそうだよねー」
「……」
 気楽な阿呆が好き勝手なことを言う。うるさいやつだ。
 つばさのように何事にも気楽になれたら、僕の頭痛や胃痛がどれだけ減るか。そう思っても口には出さない。口は災いの元を地で行くのがこの空間だ。しかも元の言葉がただの愚痴や当たり前の感想でも災害を呼ぶ。要するに内容に関わらず発言すること自体が危険なのだ。
 だから口には出さずに黙ったまま、つばさの気楽な脳みそに刺激を与えるため強めのデコピンをかましてやった。
 快音ひとつ。
「あぅっ!?」
 のけぞって額を押さえる馬鹿を尻目に、大きくため息を吐いた。奇行に付き合いきれずに吐くため息は、もうほとんど日課となっている。それぐらい僕に平穏はないということだ。
 もう一度ため息を吐きそうになったとき、長谷部が注目を集めるようにパンパンと手を打合せた。
「さて諸君、有意義な交流タイムはこれぐらいにしておこうじゃないか。そして急速かつ強引に話を戻すとだね、――そう、部費争奪戦も近づき各部の間で不穏な動きが」
「って、おいおい、ちょっと戻りすぎだぞ。確か一年が部費争奪戦を知らないってとこからだな」
「ああそうか。うむ、やはりお前がいると便利だよ、五十嵐」
 確かに同意する。五十嵐は長谷部のストッパーとしては部内で一番だ。おしいのは遠矢に効果が無いことか。それも可能だったなら僕としてはかなり重宝するのだが、人生そう上手くは行かない。
「いいコンビですよね、あのお二人」
 不意に遠矢が僕の肩を小突いて、二人には聞こえないようつぶやいた。しかしなぜか僕越しにつばさが答える。
「うん、ホント私もそう思う。自然な組み合わせだよね」
「……確かに。五十嵐がいなかったら手が付けられないからな、あのテンションは。……お前らその半眼はなんだ」
「いえ、解ってませんねぇと思いまして」
「やっぱりいっちーはいっちーでしかないねっ」
 何のことなのか解らないが、とにかく馬鹿にされているらしい。それもステレオで。僕が何をした?


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