部長と刺客と冷静男-3
長谷部はそんな僕達を不思議そうに見て、
「む? どうしたのかな君たち。――そんなに眺めても五十嵐は私のモノだから渡さないよ?」
五十嵐が吹き出して激しくむせた。僕の隣では遠矢とつばさが、まあ、だの、うわあ、だのと言って驚いている。
その反応も、ややオーバーな気もするが、まあ解らなくもない。いくら長谷部とはいえ、何というか今の発言は、
「……人をモノ扱いはよくないな」
「そこかよっ!?」/「そこなのっ!?」/「そこですかっ!?」
長谷部を除く三人に同時に突っ込まれた。
「……他に何がある?」
なぜか三人は無言で僕から視線を逸らした。
「何を局地的に楽しくやっているんだい。平均的に少し落ち着きたまえ」
なぜか三人は無言で長谷部からも視線を逸らした。
長谷部はそれをどう受け取ったのかは知らないが、それほど相手にせずに真顔に戻り、
「さて、時間の浪費という愚行はやめて至急かつ無理に話を戻すとだね、――そう、部費争奪戦も近づき各部の間で不穏な動きが」
「って、おいおい、ちょっと戻りすぎだぞ。確か一年が部費争奪戦を知らないってとこからだな」
「ああそうか。うむ、やはりお前がいると便利だよ、五十嵐」
……なぜか既視感が。と言うか、僕の脳が正常なら明らかにさっきと同じことを繰り返している。それはわざとか、阿呆ども。
しかし今度はつばさも遠矢もおとなしい。ループに付き合うのは嫌なのか、それとも興味が無くなったのか。どう考えても前者だろうが。なんだか少し引き気味だし。
長谷部はそんな僕達を不思議そうに見て、
「む? どうしたのかな君たち。――そんなに眺めても五十嵐は」
「で、部費争奪戦の詳細は何なんだっ!?」
危険な流れをザックリと断つために半ば叫ぶように言った。危うく無限回廊に引きずり込まれるところだった。油断ならん。
「……そんなに慌ててどうしたんだい? ともあれ、そこまで頼られ崇められ期待されたならば仕方がないから説明しようか」
別に崇めてない。
語る内容は起源、どのようなものか、参加規定や昨年の部費の少なさに対する愚痴や不満などだった。それを要約すると、知力・体力・時の運が必要ないろいろな競技をさせ、その総合成績によって部費を決めるシステムらしい。テレビのクイズ番組のようだ。ニューヨークへ行きたいか。
「――と言うわけさ。解ったかい」
「ああ、……八割は個人的な不平だったな」
「ん、何か言ったかな栗花落くん?」
首を横に振る。災害はもう勘弁だ。
「とまあ、競い合うという性質上、他の部の不調はすなわち自分達の部費向上につながるからね、となれば不穏当な輩も増えるさ。そして便乗して利益を得ようとする者たちも、ね」
「……つまりどこかの部に頼まれたやつが、他の部のやつを脅すなりして辞めさせた?」
「そう。なんでも噂によれば、辞めていったひとりは何者かに脅されたというようなことをほのめかしたらしいよ。部長が急な退部の理由を問いに行ったらね、ひどく怯えた様子でこう呟いたそうだ。――まんじゅう怖い、と」
「……何だそれ」
どこの落語だ。
しかし退部を選ばせるほど菓子に対する恐怖心を植え付けるとは、いったいどんな脅し方をしたのか。その方法でまんじゅうなどではなくもっと普通に恐がるもの、例えば暴力などを使って脅せば、どれだけ従順にできるのだろう。後学のためにもぜひ知りたいところだ。そしてあわよくば、阿呆どもをその技術でおとなしくさせたい。
……まあ、しょせん噂は噂。広がるうちにだんだんと背ビレ尾ヒレが付いただけで、実際はたまたまタイミング良く、いや悪く、辞めたやつが出ただけといったところだろう。
「とにかく、これからは不審者に気を付けて、無闇にまんじゅうを持ち歩かないこと。いいね?」
言われなくても持ち歩かねぇよ。
「と、まあ真面目な話ばかりをして皆も疲れたと思うからね、ここいらで気軽な話に指針を変えようと思うがいかがかな?」
「あれが真面目か」
ならばふざけた話題はどれほど異世界の概念で語られるのだろうか。できれば知りたくない。知る機会など一生、それどころか輪廻転生を何回繰り返した先であっても来なくていい。