初恋はインパクトとともに ♯5/魔法の言葉-2
夕日は沈みかけ、暁時というやつか…海都市の夕日はとてもキレイなんだ。海が近いからかな?
赤やオレンジや黄色のグラデーションが町を包む感じはいつも何か幻想的で新鮮だ。そして、そんな茜色の空は…やはり私に彼の事を思い起こさせた。
私は自分でも信じられないくらい必死に駆ける駈ける翔る……人でごった返す歩道を、駅前を、公園を、ショッピングモールを、デパートを…翔る!駈ける!駆け回る!
なぜかって?さぁなんでだろうな……
そして、週末で人が賑わう駅前広場…大時計を横切ると、私はいつの間にか彼と初めて出会った路地裏へと足を進めていた。
思い出深い場所ではあるが、ここなんかにいるはずがない…ここはテレビや冷蔵庫やらの粗大ゴミが散乱したゴミ溜めでしかないのだから。
でも、何だかちょっと立ち止まってしまった。
「すぅーふぅー」
深く深呼吸。うん、臭い。
だが、何だか少し彼に近づいたような気がした。
ガサゴソ…
不意に人の気配を感じた。アカネ…ではなかった。気配は殺気を込めており、4人いる。
「竜童児晶だよな?」
何かどこかで見たことあるような展開だった…
チリチリとした感覚がヒシヒシと伝わってくる…殺気を感じるということはそういうことなんだろう。
「そうだが?」
男たちに取り囲まれた…これは何かあの日の様子に似ていた。だから思わず少し笑ってしまった。
「可愛いぜ…いや違う!オレと付き合うかもしくは勝負してくれ!…いや、しろ!」
何ていう展開だ…ははは。
「まぁ…私に勝てたら考えよう。」
まったく負ける気がしなかったので適当に答えてみた。
「うぉっしゃ〜!いくぞ!おまえら!」
おまえらって何だ?竹刀を持った男は四人…つまりはそういうことか。
「1対1とは言ってない!」
ははは…まあ確かにな…
「というか、私と勝負したいのか?それとも付き合いたいのか?どっちなんだ?」
別に気にもならなかったが一応聞いてみた。こんなときにも何というか礼儀を忘れないとは…私らしいというか何というか。
「どっちもだ!俺は竜童児晶に勝ち、竜童児晶を我が物にし、竜童児晶と付き合うのだ!」
「ふうん…」
何かちょっと…いやかなり気押された。ひょっとして、ひょっとしたりしないだろうな?まぁ、ないだろうな…相手の力量は見た目だけで明らかだし。
「…了承した。ではとりあえず…」
私が包みに手をかけようとしたその時…
「だめ!ダメ!駄目だ〜!」
彼はあの日と同じように現れた。
私を庇うように立ちはだかり、男たちを睨んでいる。
なんか胸が高鳴った…あの日の懐かしさがそうさせたんだろうか?多分、それだけじゃない。単純に彼と会えたことが嬉しかったんだ。
「あ、アカネ…おまえ…」
そんな感情を悟られまいとムスッとした顔をしてしまった。私としたことが…
しかし、こういう時はどうすれば良いのか分からないんだよ。
「心配しなさんな、お嬢さん!」
セリフがあの日と同じだった。
私を庇おうとするその背中が何だか大きく見えた。
正直嬉しかったよ。嬉しかったんだけどさ……
「バカ!おまえはケガしてるんだぞ?ていうか弱いくせに無理をするな!」
って態度を取ってしまう。
「ヒドいな〜せっかく俺……」
何かいじけていて可愛いかったんだが、これは私が受けた決闘でもあるし、それに彼に格好良いところを見せたかったんだよ。
そして……彼が見ていてくれるならば負ける気がしなかった。
私は気付かぬうちにニヤけていた顔を引き締めた。
「そこで見ていてくれ。私は負けない!」
「俺が心配してるのはアイツらのほうですよ。手加減してあげなさいよ?」
「ふふ、無論…峰打ちで捨て置く。」
こんなやり取りもやはり心地よい…
私は包みの鯉口を解き、愛刀『一式・竜薙』を取り出した……