『即席結婚パック(前編)』-2
翌日私の両親はキツネにつままれたような顔をしてテーブルについた。向かいの夫婦はサクラか毅の実の両親か、どっちでもいいやと私は親を残して新郎新婦控室にいった。そこはホテルの普通の客室で今夜泊まる部屋ともまた別だった。入ると白いタキシードの毅が落ち着かなそうにソファに座ったり立ったりしていた。
「ぷ、なによもう着込んじゃって。あたしだってまだこれからなのに…」「うるせーよ」赤くなっている毅だがタキシードを着ると見違えるほど大人っぽく、髮もジェルで整えられてどこから見ても凛々しい新郎だった。「あんたはまだ着替えねーの?それでもよくね?」「ばかね。ワンピースじゃない。ドレス着るのよ美容室で。」「ふーんここじゃねーのか」新郎の部屋で新婦が脱ぐわけにはいかないわよ、と手を振って部屋を出ようとしたとき後ろから突然抱きかかえられた。
「脱ぐの手伝ってやろうか」
私の思考が止まっている間に毅は私を奥のベッドまで引きずって押し倒した。「な、なにすんのよ!はなしてよ!」本気で嫌がって必死に抵抗したが筋肉質の細い腕の力はとんでもなく強くおさえつけられると逃げようもなかった。
毅は私の背中のファスナーに手をまわして開けると、ワンピースを引き下ろし胸まではだけさせた。シフォンのブラに鼻から顔を埋めながら片手で私の両腕を制してもう片方の手で下から手を入れてきた。「放して…!やめて!!」毅の細いけど節くれだった指がパンティの上から感じられた。ビクッとする。ブラと同じシフォンの薄い生地へだてて毅は私の溝を探している。私は絶望感に包まれていた。この少年の欲望のままにされてしまうのだ。指は足の間を割って入り秘部をなぞった。
「ひ…!」私の声に毅は顔をあげた。と同時に唇を重ねた…
その隙に私は彼を突きとばし、反動でベッドから床に転げ落ちた。毅は驚いた顔で私を見ている。「何すんのよ馬鹿!!アンタ最低よ!!イイヤツだと思ってたのに!」毅はわけがわからないといったふうに反論する。
「何だよ!これから結婚するんだろ!?結婚はいいけどヤルのは駄目なのかよ!?」「ヤルとか言わないでよ!!」
悔し涙を拭いながら部屋を飛び出し廊下を駆け抜けた。毅が言ってることはそんなにおかしなことじゃない。だけど…こんなイキナリは嫌だ。子供じゃあるまいしあたしは何を言いたいのかモヤモヤしているとコーディネーターと美容師が私を探しにきた。「新婦様がいらっしゃらないから皆、あわてましたよ!!はやくお支度しなくては…」
私はドレスを適当に選び水で顔を洗った。メイクを施されながらチャペルで父親とヴァージンロードを歩くのだけは嫌だと駄々をこねたので式も披露宴会場でやることになった。ほんとは式も結婚もやめたかったのだ。
会場前に連れて行かれると毅がいたので私は顔あげたくなかった。「新婦様のお支度綺麗にできましたよ」と介添人が言っても新郎の毅も下を向いて黙っている。
音楽が鳴ると仕方なく腕を組むために毅が左腕を突き出してきた。私も遠慮がちにそっと手を絡ませて腹をくくって歩き出した。
それからは思い出すのも散々だ。会場を新郎新婦がまわるのだが毅はかまわずスタスタ歩き、私は早過ぎる!と腕を引っ張る。と、今度はむかついたとばかりに毅が歩かなくなり会場も苦笑い。やっと神父の前にたどり着くも神父も急に用意したのでよくわかってないらしくとりあえずキスをしろというので私は背伸びをして間髪いれず無理矢理に毅にキスしてサッと済ませてしまった。ケーキ入刀も花束贈呈もないまま新郎新婦はバラバラに親族・友人に囲まれて披露宴を終わった。
もっと恐ろしいのはこれからだ…と最上階にむかうエレベーターで私は気付いた。初夜ばかりは客でその場をごまかすわけにはいかない。スイートルームの両開きのドアのまえで私は額を指で押さえて悩んだ。これから朝まで毅と二人で気まずい時をこの部屋で過ごさねばならない−−ドアの向こうに毅がいると思うと逃げ出したくてしょうがない。