二人は未完成-1
「田所様がここに来た理由、まずそれを考えねえのか、あ!? このボンクラ」
「り、理由って、そんなの……ハメ撮りしたいからに決まってんじゃないですか……」
さっきまで怒り心頭だったツトムくんは、傳田に締め上げられ、すでに涙目状態。
よく見りゃ細くて長い脚がガクガク震えていた。
「田所様は『違う』っつってんだろ?」
「だって、このシチュエーションじゃ誰が見たって……」
「だから『話を聞いて』っつってんだろうが! 耳くそつまってんじゃねえのか!?」
「う、うひぃっ!!」
挙げ句にはツトムくんの耳を引っ張って、耳元でがなる傳田に、さすがにレッドカードだと判断した俺は、慌てて傳田の元へ駆け出した。
そして、傳田の華奢な肩を掴んでツトムくんから引き剥がす。
「何するんですか、社長! 私はまだ話が終わってない……」
その大きな瞳で睨まれると、変な汗が出てきて逃げ出したくなるのだが、やはり俺が引き下がるわけにはいかない。
やたら乾く口の中を咳払いして、
「傳田、もういい」
と、彼女に向けて小刻みに頷いてみせた。
チッと舌打ちされて、俺まで涙ぐみそうになり、ふと目が合ったツトムくんとよくわからないアイコンタクトをする。
恐えよな、この女。とでも言いたげに。
皮肉にも傳田の振る舞いで、ツトムくんの態度を軟化させることができたような気がして、おもむろに口を開いた。
「土居ツトム様、大変なご無礼、申し訳ありませんでした」
「……は、はい」
傳田効果で、さっきの怒り心頭だったナリはすっかり潜め、声色が柔らかく(いや、怯えているのか)なったツトムくん。
田所さんが彼を優しいと言っていた、その本当の姿が垣間見えた気がした。