二人は未完成-5
「……御代田さん、顔を上げてください」
その言葉に従って、再び田所さんの顔を拝めば、菩薩のように穏やかな笑顔があった。
隣のツトムくんもまた同じような柔らかい笑みで。
「どうかお気になさらずに」
「田所様……」
「御代田さんは、最後まであたしが契約することに難色を示していたのは、やっぱりロストバージンは好きな人としてほしい、そう言いたかったんでしょう?」
「え、ええ……まあ……」
「それでも押し切るあたしを止めるための手段として、ツトムに今日の撮影のこと、教えたんでしょう」
「はい……。でも、これは大きな賭けでしたけど」
個人向けのAV製作会社なんて、嘘臭い怪しい会社に、自分の恋人が依頼していたなんて、そんな馬鹿げた話を誰が信じる?
仮に信じたとしても、自分の恋人がそういうことをしようとしていたら、許せるだろうか?
傳田ならうまくやってくれるとは思っていても、これがきっかけで別れる可能性の方が高かったわけだから、かなり分が悪い賭けだったのだ。
「確かにツトムがここに現れた時は、血の気が引いたし、別れを告げられた時は本当に辛かった。でも、……いえ、だからこそあたしは目が覚めました」
そして彼女は、傳田に向き直り頭をペコリと下げた。
「傳田さん、あたしを庇ってくれてありがとうございます」
「田所様……」
「目が覚めたからと言って、ツトムを裏切ろうとしていたことには変わりがありません。だけど、傳田さんがあたしの話を聞いてあげてとツトムくんに訴えてくれたことは、本当に嬉しかったです」
田所さんにお礼を言われ、少しはにかむ傳田をよそに、俺とツトムくんはこっそり目を合わせて互いに苦笑い。
いやいや、あれは訴えじゃなくて脅しだよな、と。
だけど恥ずかしそうにしながらも、笑顔になる傳田を見てると、まあいいか、という気持ちになった。