淫靡なる楽譜-7
「ご無沙汰しておりました、ナイトハルト陛下」
「久しぶりだな。元気にしていたか?」
「はい、お陰さまで」
「汝のリュート、久方ぶりに聞かせてもらったが、昔と同じ・・・・いやそれ以上の腕になっているな。見事であったぞ」
「お褒めいただき光栄でございます」
何気無い夫とのやりとりも、まるで歌を口ずさむかのような滑らかなものに聞こえる。
側で聞いていたディアナの心は一種の陶酔感に満たされていた。
「お初にお目にかかります、王妃陛下」
詩人が今度はディアナの方に顔を向けて挨拶する。
「紹介しよう。数年前に結婚した王妃ディアナだ」
夫の言葉に、ディアナは胸をドキドキさせながら右手の甲をゆっくり差し出す。詩人はその手を軽く押さえ、甲にキスした。
間近に迫る端正な顔立ちが自分に向けられていることに、ディアナの顔は上気し心なしか目もとは潤んでくる。
やがて詩人は立ち上がってその場を離れていく。
貴婦人の輪の中に戻っていく彼の背を見つめながら、ディアナの心に残念な、名残惜しい気持ちが残った。
その時、
( え・・・? )
ディアナは初めて気付いた。自分の手の中に先程までなかった紙の切れ端があることに――――