『Twins&Lovers』-78
「こら、オッサン」
すぐ脇で、男の声がした。同時に、お尻を蹂躙していた指の感覚が消えた。
(あ……?)
ふたみは、声のほうを向く。
「世知辛い世の中や、いろいろストレスたまっとんのはようわかる」
男の声は、ささやきのようである。どうやら、痴漢にだけ聞こえるように話し掛けているらしい。
「そやけどな、これは立派な犯罪やで」
痴漢と思しき男のかすかな悲鳴も耳に入った。掴まれた手首を捻られているのだろう。
「あんさんも、きっと立場のある人間なんやろう? それが、こんなことで人生棒に振ってええのんか? ようないやろ? 養うとる家族もおるんやろ?」
あくまで、男と痴漢の会話は、二人の間だけでされている。だから、その異変に気づいている乗客は、表面上はいない。
「この子の気持ち考えたら、ほんまなら警察に突き出さないかんところや。ワイもそうしたいところや。けどな、あんたらの家族の面目もあるやろう。今回は見逃したる。はよ、この子に謝って、どっかいけ」
会話は終了したらしい。痴漢と思しき男の声が“すまない”と言って、そそくさと場所を移動したところから、それはわかった。
プッ、プピッ……
「う……」
しかし、根源的な問題は解決していない。僅かずつだが、漏れ始めたと思しき老廃物は、確実にショーツを汚しているだろう。微量であるが故に、匂いなどは感じないが、もう幾許の猶予も、余裕もない。
しかし、助けられたのだから、ふたみとしてはその相手にお礼を言いたかった。おそらく、すぐ近くにいる眼鏡の人がそうに違いない。恐る恐る、ふたみがその方を向いたとき、期せずして目が合った。
「あ……」
彼は、制服姿だった。ひょっとしたら、同じぐらいの学年かもしれない。
目が合ったとき、その彼は、何も言わずにこりと笑った。そのとき見えた八重歯が、印象的だった。
「あ、あの……」
ふたみが、なんとか声をかけようとしたとき……、
ぎゅ、ぎゅるぐるぎゅるるる!!
「う、うあ!」
すでに崩壊寸前だったふたみの下腹部が、ついに限界を迎えた。一気呵成に、駆け下ってくる老廃物の土石流。それを押しとどめるだけの気力は、もうない。
「!!」
そんな中、滑るようにして列車がホームにたどり着いた。
ふたみは、乗り込む客も降りる客もいないそのドアを駆け抜ける。助けてくれたお礼を言えなかったことに、後ろ髪を引かれたが、その恩人に、自分の醜態は晒したくはなかった。
ホームに降り立って、ドアが閉まった瞬間、ふたみの理性は遂に陥落した
「ん、んっ!!」。
ぶっぶぶぶぶ………。
はっきりそれとわかる音を発しながら、自分を苦しめる全てを排泄する。尻の部分が、もりもりと膨れ上がっていくのがよくわかった。
時折、鼻をつく刺激臭は、もしもこれが車内だったとしたら、明らかに周囲に分かってしまうぐらいだ。
「ふ、く……うう………」
だが、ここは人気のない小さな駅のホーム。ふたみは、なんの遠慮もなく排泄を繰り返した。
「はぁ、はぁ、はぁ………あ、ん、んん……」
ぶぶっ、ぶりぶりぶりぶり………。
徐々に重くなるショーツが、その量の多さを物語っている。これでは、後始末も大変そうだ。
しかし、そんな心配ごとも余所に、ふたみは限界まで堪えていたものを吐き出す行為に集中する。それだけ、苦しくてたまらなかったのだ。