『Twins&Lovers』-77
(や、やめ……)
声を出すのが、怖い。よくテレビや何かで、毅然とした態度をとれば、痴漢はやめるということを耳にしていたが、とてもそんなことはできそうにない。
痴漢の手は、そんなふたみの弱気な態度に味を占めたか、スカートの表面を撫でるだけの行為から、一転、その中への侵入を試みてきた。
(!!!)
さすがにふたみは身をよじった。
しかし手は、そのかすかな抗いも意に介さず、ふたみのショーツに、指を触れてくる。
(あ、ヤ………)
尻の割れ目をなぞるような動きで、ふたみの臀部を蹂躙する指。
不幸なことに、その指の動く道筋の中に、ふたみにとって避けてほしい場所も含まれていた。
(だ、だめ!)
痴漢行為に遭遇している事態が、一瞬そのことを忘れさせていたが、いまのふたみはのっぴきならない状況にあるのだ。その、本能と理性とがもっとも激しい攻防を繰り返している場所を、痴漢の指は何も知らずに通過していく。
その刺激を受けたふたみの城門は、途端に開放への律動を再開した。
(あ、ああああ〜!)
ふたみは、四肢をいっそう強張らせ、なんとか暴発を防ぐ。もはやこうなっては、ある程度の動きもやむをえない。なにより、この場での敗北は、社会的な敗北にもつながってしまう。
(や、触らないで……許して……)
そのふたみの状態に気づいたのか、指が、その場所を重点的に責めてきた。指の先で、すぼまりに、ノックするように触れてくる。
(うう……ダメ……ダメ……)
そんなかすかな刺激でさえも、今のふたみには、絶望的な効果がある。
内側からは本能の尖兵を、外側からは卑劣漢の侵略を受け、ふたみの城門はまさに陥落寸前であった。それでもなおふたみの理性は、全てをその門に集中させることで、抵抗し続けていた。
『ドアが閉まります、御注意ください』
そのため、ふたみは忘れてしまっていた。この駅で、降りることを。列車のドアが閉まったことで、皮肉にもそのことを思い出した。
その駅で降りる客はこの車両の中では皆無。まったく動きのなかった車内の密集度はそのままで、従って、ふたみは痴漢の蹂躙を受け続けることになった。
ぎゅ、ぎゅるるるるる………。
下腹が、これまで以上に唸る。体内の圧力が自然に高まり、ふたみの中から大挙して飛び出そうとする。
(く、苦しい……だめ……)
彼らには、ふたみの思惟などお構いなしだ。今、この状況で、彼らが開放されたとしたら、それは宿主であるふたみにとって死にも等しい屈辱になると知らず……。自分の体のことながら、自由にならないもどかしさと、恨めしさに、ふたみは苛まれている。
ぐにっ!
「は、はうぅ!」
ふたみの敵は外にもいる。
その敵である痴漢の指が、ショーツ越しにふたみの孔穴を押さえつけてきた。必死に施錠している扉が、こじ開けられそうになってしまう。
流動性の高い、限界を超えた値まで直腸に貯蔵されている老廃物は、ほんのかすかな隙間からでさえも漏れ出しそうだ。
ぷ、ぷぷっ!
事実、先行してガスが溢れた。
(だ、だめ……出る……)
度重なる刺激に痺れきった孔穴は、もはや薄紙一枚ほどの抵抗力も有していない。
ふたみは、敗北を予感した。
(う……うく……)
ぬるり、とした感覚がふたみの尻に溢れ出したときだった。