『Twins&Lovers』-69
勇太郎は、緊張を抑えられない。
………ひとみに、どれだけねだられるか、不安なのだろうか?
いいや、そうではない。
確かに、緊張の原因はひとみにあると言えるが。
………では、まだ午後のことを気にしているだろうのか?
いいや、そうでもない。
確かに、少しばかり後ろめたい気持ちは残っているが、しきりに「ゆうたろう、ゆうたろう」と、呼んで、はしゃいで、腕にしがみついてくるひとみを見ていると、嬉しくて思わず顔が緩む。
しかし、勇太郎の動悸はおさまらない。頬が熱くてたまらない。
「ね、次、あれね」
浴衣姿のひとみが、振り向いた。長くて艶やかな髪が、ひらり、と、舞った。
彼女は、いつものポニーテールではない。髪をおろしていた。それが、浴衣姿に映えて、美しい。
そう。勇太郎は、そんなひとみの美しさに見惚れていたのだ。
(はぁ………)
綺麗だ――――。切に、そう思う。
ひとみのことを好きであるし、可愛い恋人とも思ってきたが、その美しさを愛でる気持ちが起こったのは、勇太郎の中では初めてだった。
「どうしたの? ふたみのこと?」
勇太郎は首を振った。
今日は、ふたみは縁日に出ていない。どうも、ふたみは多すぎる人ごみは苦手らしい。花火は家の二階で遠巻きに見るという。
「なに?」
「知らなかった……」
「うん?」
「ひとみ、綺麗だ……」
うなされたように呟く、そんな無意識の声だった。
ぼ、とひとみの顔に灯が燈る。
「お、おお、お約束ね! 縁日で、浴衣で、き、綺麗だ、なんて!」
しきりに照れる。
ひとみの人生の中で、しっかりしてるとか、勝気だとか、凛々しいとか、頼もしいとか、オトコっぽいとか、せいぜいで、かわいい(*身内限定)とかいわれるぐらいだった美辞麗句(?)に、“綺麗”と言う単語が入ったのは初めてだ。
(嬉しい)
しかも、その相手が勇太郎というのだから、ますます嬉しい。
「あ、ありがとう」
頬を染めて、勇太郎の手を取った。触れた手のひらは、とても暖かい。
ぎゅ、と握られた。
きゅ、と胸が鳴る。
想いが伝わってくるようで、とても嬉しい。
『………の打ち上げが始まります。混雑が予想されますので、御手元・御足元に注意して、慎重に移動してください。もう、間もなく、花火………』
花火大会の開始が近いことを知らせる、案内が入った。
「い、行こうか?」
「うん」
花火は、神社から歩いて、すぐ傍にある川の堤防から良く見える。ふたりは、手をひいて、その場所へ向かっていった。
地元紙の一面を飾るぐらいには、豪華な花火大会である。人出も、普段の城南町に比べれば、はっきり言ってとても多い。はぐれれば、少し面倒なことにもなるだろう。
だから、二人はずっと手をつないでいた。
川の堤防には、人の群れ。彼らが見上げるひと夏の夜空を飾りたてるため、花火は次々と打ち上げられ始めた。
尺の大きさで、観衆のどよめきを起こすものもあれば、演出の美しさで、群衆のため息を誘うものもあった。色とりどりの、夏の華……。
だが、勇太郎は、それ以上の美しさを、ずっと見ていた。
空の花火が瞬いて、夏の闇夜が照らされて、それを見つめる横顔も輝いて――――。
(こんなにキレイな子が、僕の恋人なんだ………)
たまらない喜びと、ほんのちょっとの優越感。そして、不安。