『Twins&Lovers』-166
「誠司」
杉本が反応したことで、今だ夢の住人である勇太郎を除き、みなの視線がドアに寄る。
結果、身体を預けていたひとみが大きく動いたので、勇太郎もまた目を覚ました。
「あ、れ……」
その意識は朧であったが。
「よかったら、郷吉さんの状態をお話ししたい……みんな、御身内と考えてよろしいか?」
「勇太郎」
その答えは、勇太郎に主導権がある。ひとみは、いまだ覚醒しきらない勇太郎の方を少し揺さぶって、意識を杉原の方へ向けさせた。
「あ、先生……」
「おはよう、勇太郎君。……君も含めて、ここにいるみなさんに、いまの郷吉さんの病状をお知らせしたいのだが?」
もう一度、勇太郎に訊く杉原。今度は、彼の耳にしっかりと届いたようだ。
「あ、はい……大丈夫です。ここにいるのは、みんな、じいさんの家族だから……」
いつか郷吉が口にした言葉を、そのまま杉原に返した。
「広い場所で、話そう」
杉原は斉木久美に後を託すと、部屋にいた全員を連れて、別の場所に移った。
そこに向かう間も、部屋に入ったときも、皆は無言であった。無理もない。杉原の様子を見れば、楽観的な内容でないことは容易に想像できる。
「単刀直入に言いましょう」
その空気を読んだ杉原は、結論から入った。内容が内容だけに、その言葉づかいも正したものになっている。
「今夜あたりが、峠になります」
張り詰めていた空気は、さらに重苦しく、皆を包み込んだ。
「昨晩の発作が、もしも同じように起これば、おそらく郷吉さんの心臓は耐えられないでしょう。……あの、あまりに激しい発作が、昨晩だけのものだったのか、それとも定期に起こるものなのかは私にも予測がつきかねます。……今は落ち着いていますが、覚悟だけはしておいてください」
沈黙。誰も杉原の言葉に答えるものはいない。
「………」
以前から郷吉に言われていたことだ。もしも彼の命が尽きそうになったら、包み隠さず自分とその家族に伝えるようにと。だから杉原は、重いその内容を余すことなく全て話した。
「最善は、尽くします」
「お願いします………」
勇太郎には、それしか答えられなかった。
たとえそれが沈鬱なものだとしても、時間は等しく流れてゆく。
郷吉の眠る病室に、皆は言葉もなく佇んでいた。
「………」
勇太郎は、ただ祖父の眠る姿を見つめるだけだ。まるで、間もなく命が尽きるとは思えないほど穏やかな呼吸を繰り返している。
『……勇太郎』
不意に、いつか交わした話を思い出した。
『………
「勇太郎、相変わらずひとみちゃんとウハウハか?」
「ぶっ!」
「ぐはは、もうわかったぞ! みなまで言うでない!」
訊いたのは、そっちだろう? 勇太郎は喉の奥まで侵入してきたお茶にむせながら、無邪気かつ豪快に笑う郷吉を睨みつける。しかしその後で、からかわれている自分に気づき、その表情を崩した。なぜなら、それこそが郷吉にとって、ひとつのエネルギー供給の源になっていることを知っているからだ。
「うむ、いい面構えじゃな」
「な、なんだよ」
「父親に、似てきた」
「え……」
郷吉の口から、父親の話が出たのは初めてだった。意識もないぐらい小さい頃に両親と死別していた勇太郎にとって、“父”という存在はすでに郷吉のことであり、従って本当の父親のことについては、あまり関心も抱かなかった。