『Twins&Lovers』-14
それを、ひとみも知っているから、例え勇太郎と深い関係になったと言っても、この日を疎かにはしたくなかった。勇太郎も、そんなひとみだからこそ惹かれたので何も言いはしないし、むしろ、この優しい弥生おばあちゃんを大切にして欲しい。
だから、今日はお預けだな、と理解している。オスとしての本能は、むせび泣いているが。
「今日は、ふたみがお留守番だね」
ふたみが言った。
弥生と付き添い役は、この日の夕飯は外で食べるという不文律がいつのまにか出来ている。結果、留守番役はひとりで夕飯を食べなければならない。
なんなら姉妹一緒に出かけるという手もあるのだが、そうなると毎週、時には一週間に2度のことなので、食費がかさむ。また、弥生自身も、孫たちの時間をあまり自分のために拘束したくないという思いもあったから、付き添いは交替制にしているのだ。
「あ、そうだ。勇太郎」
ひとみが、続ける。
「よかったらさ、ふたみと一緒に留守番してくれない?」
ふたみが、その声に箸を止めた。
「たぶん、大丈夫だと思うけど、やっぱりひとりだと寂しいもんね」
そういって、妹に微笑むひとみ。それは、姉としての優しさだったのだろう。
ひとりでする留守番と言うのは、家族の温かみを渇望している姉妹にとって少し苦痛である。普段は勝気なひとみでさえそのように感じるのだから、寂しがり屋のふたみにはなお辛いことかもしれない。
「ひとみちゃん……」
そんな姉の気遣いが、ふたみには嬉しい。
「いいよ」
勇太郎は、何の逡巡もなく答えた。
実は、勇太郎の祖父である郷吉は、入院しているため家にはいない。しかも、検査とか診断とか、なにかと綿密にしなければならないらしく、郷吉の主治医からは見舞いの日時をきっちりと定められている。そのため、病院にいける日は限られているのだ。
そして、今日もその日ではない。
「いいかい、ふたみちゃん?」
一応、確認はしておいた。ふたみにも、自分の時間というものがあるだろう。
「うん!」
だが、予想通りといおうか、ふたみは何のためらいも迷いもなく、きらきらした顔で返事をしてくれた。
「ごめん、ふたみちゃん。ちょっと先生に呼ばれてさ」
そう言って、勇太郎が困った顔を見せたのは、昼休みの時間だ。
「そんなに、遅くならないと思うけど……」
先に帰ってて、と眼で語る。
「うん、わかったよ」
そう答えたふたみも、下校時間を迎え、今は自分の部屋にいた。
ひとりになると―――――どうしても、ひとみと勇太郎のことを考えてしまう。二人の、関係のことを。
恋人同士、ということに対してのわだかまりはないつもりだ。ほんのかすかに、心の違和感はあっても、二人の幸せに割って入るようなことはしたくない。
ふたみは、勇太郎もひとみも、とても好きだから。
とす、と、ベッドにうつ伏せになる。なんだか、頭がぐるぐるしていて、落ち着かない。
(ひとみちゃん、お兄ちゃん………)
ふたみは、ひとみが朝帰りしてきたことを思い出した。きっと、勇太郎の家にずっといたのだろう。若い恋人同士が、夜を通して共にいたならば、やることはひとつ。
枕に手を伸ばし、その下から何かを取り出した。綺麗でかわいいカバーをつけた、文庫本だ。ふたみは、その本をめくりはじめた………。