『Twins&Lovers』-119
「あ、安堂さんのお宅ですか。ワイ……あ、いや、ワタクシ、ふたみちゃ……ふたみさんの部活の先輩で、轟いうもんですが……あ、ああ、ふたみちゃんやったんや」
つい、耳をそばだてて聞いてしまう。
「あのな……急の話で、申し訳ないんやけど、明日な………」
(くっくっく。あのアホ……告白したんはいいけど、ウチがあげたチケットのことは話してなかったんやな)
きっと、相当に舞い上がっていたのだろう。その初々しさに可笑しさが込みあげてきて、思わず吹いてしまう弓子。
「え、ええの? ホンマに!? おおきに!!」
どうやら話は彼の望む方向でまとまったようだ。
やれやれ、という感じでその場を離れ、キッチンへ向かう。まだ、洗い物は残っているのだ。
(ようやっと、あの子にも春がきたみたいやね)
長い間、母子家庭で育ってきたから、寂しい思いもさせてきた。外面では人当たりが良く、人情家を思わせながら、なんとなく冷めたところもある息子の性格は、その寂しさが生んだものかもしれない。
寂しさを埋めてくれるもの。それは、無機質なものだけでは絶対に足りない。一緒に、歩いてくれる存在が、なによりも必要だ。
「♪〜♪〜♪」
居間から聞こえる陽気で音痴な愛息の歌声。
それを聞いた弓子は、たまらずにまた吹きだしていた。