『Twins&Lovers』-112
「………」
「………」
がら。
「おお、二人とも来ていたか」
部室の扉が開き、三人の女子が姿を見せた。部長・藤堂智子以下、文芸部の面々である。
ふたみは思わず、『恋心』をポケットにしまっていた。ここにいる面子が皆、“安納郷市”にはまっているのだから、別に気兼ねすることはなかったのだが、兵太と二人きりのときに読んでいたということがなんとなく恥ずかしくて、そんな行動をとったのだ。
「美野里は、今日は休みだから、これで出揃ったことになる。早速、ミーティングといこうか」
そんなふたみの心の葛藤を知らず、智子は手にしていたプリントをそれぞれに配り、なにやら説明をしだした。そのせいか、いつしかふたみは、ポケットに入れたままの『恋心』のことを忘れてしまっていた。
「轟君、双海を家まで送ってやってくれ」
「は、はい!?」
部活が終わり、鍵を閉めた智子がふいにこんなことを切り出した。思いのほか、ミーティングが長引いてしまい、日が暮れかかっている。
「ごめんね〜。いつもはあたしと同じ方向だから、こういうときは一緒なんだけど、今日はちょっと、ね……」
真琴が申し訳なさそうに手を合わせている。その表情から察するに、オトコだ、と兵太は感知した。
「部長は?」
確か方向でいくと、彼女もひとりになるが。
「私は連れを待たせている」
「………」
さすがにそれが男か女か、聞けなかった。もしも男だとしたら、学園を揺るがす特大スクープになってしまう。その影響の大きさを考えると、さしもの兵太も尻込みするのは仕方がない。
ちなみに、もうひとりの女子・恵は、学園から歩いて4分のところに家がある。従って、女子が一人歩きをするのに、少しばかり用心が必要な距離を残しているのは、ふたみひとりというわけだ。
兵太の家は、二駅向こうの区画にある。そして、駅に向かう方向は、ふたみの家を通れば若干遠回りにはなる。
「おまかせを!!」
だが、それは些細な問題にもならない。兵太は即答していた。
「それじゃ、頼む」
「じゃーねー」
「……さよなら」
めいめいに言葉を残して、部員たちは散ってゆく。
「あの……いいんですか? 遠回り……」
「かまへんかまへん。ちーっとも」
「ありがとう、ございます」
「もう、いややなー。ワイと、ふたみちゃんの仲やないですか。ふたみちゃんのためなら、ワイ、火でも水でもこわないで」
軽い、冗談のつもりだった。
「………?」
しかし、反応がない。
兵太は慌ててふたみの方を伺う。すると、真っ赤になったままこっちを見ているふたみの視線が、待ち伏せをしていた。
「あ……」
闇に落ちかけている夕映えが、それでも、ふたみの顔を紅く照らしている。
胸が、高鳴った。
(僕は、自分から気持ちを伝えたよ)
ふいに、勇太郎の言葉がよぎる。
(…………)
兵太は、足をとめて、その姿勢を正していた。
「あの、ふたみちゃん………」
伝えるべき言葉は、ただひとつ。そして、いまが、その好機。
風……秋を思わせる、涼しげな風に乗せて。
確かな思いが、紡ぎだされた。