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『Twins&Lovers』
【学園物 官能小説】

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『Twins&Lovers』-104

 城南学園の屋上は、わりと広い。簡単な庭園があり、座るところもそこかしこにある。それでもあまり昼の溜まり場とならないのは、そこまで移動する労苦を惜しむ学生が多いということだ。
 なにしろ、一般教室のある棟とは別にある。各種課外活動の部室や、特別授業を行う教室が集まっている南棟の屋上が、いわゆる“庭園屋上”なのだ。
 南棟まで渡り廊下で行き、そこから屋上へ昇る。所要時間は、数分。……まあ、いうほど時間も労力も必要としないのだが。
「なるほど……道理で、人おらんのですね」
「まばらに、誰かいるときもあるんだけど」
 それでも今日は、無人の園と化している。
とりあえず二人は、近場のベンチに腰をおろした。
(……考えてみると、怪しいシチュエーションかもしれないな)
 不意に勇太郎は思う。
人気のない屋上に、弁当を持った男子が二人…。まさか、愛の告白を受けるとは到底思えないが、なんとなく尻が落ち着かない。
「さて、ワイらにBL疑惑が出る前に、話をしようかと……」
 なにしろその手の噂の前科もちやさかい……不安は、兵太にもあった。
「安堂はんには、妹さんがおられましたやろ」
「………ああ、ふたみちゃんのこと?」
「はい、そのふたみちゃんのことです」
「………」
「実は、その、ワイ………」
 もじもじとする兵太。ちょっと傍から見ると、勇太郎に告白寸前の彼ということで誤解をされるかもしれない。そんな考えが頭をよぎる。
しかし、目の前の兵太は真剣に相談事を持ちかけてきているのだ。すぐに勇太郎は、そんなふざけ気味の自分の態度を改め、彼の言葉を待つ。
「ワイは、その………」
 なかなか二の句を繋げない兵太。しかし、勇太郎は催促をせずに待つ
 しばらくの沈黙。だが、それは、兵太が自ら破り去った。
「……ふたみちゃんのこと、好いとるんです」
「………」
 予感がなかったというわけではない。むしろ、ふたみの名が出てきた時点である種の期待はあった。そして、それが確かな形で目の前に鎮座されたことを、素直に勇太郎は嬉しく思った。
「そうなんだ」
 だが、あえて素っ気なく答える。大物がかかったとはいえ、いきなり釣竿を引けば糸は切れてしまう。
「たしか、同じ文芸部だよね」
「は、はい」
「一目惚れ?」
「押、押忍」
「へえ」
 思わず頬が緩んでしまう。兵太の顔が、真っ赤になっていたからだ。それが、とっても微笑ましい。
(これは……)
ふたみの淡い恋心も、上手い方向へ流れそうだ。なにしろ、彼女が慕う人物の側から、先にその相談を受けたのだから。
「それで、轟は、僕にどうして欲しいの?」
 それでも、第三者の姿勢は崩さない。
「あの、ですね……」
「うん」
「あれ……兵太先輩じゃないですか!?」
 不意に湧き出た小気味の良い声に、向き合っていた勇太郎と兵太は、まったく同じ動きでその出所を探した。
そしてそれは労せず、すぐに見つかった。なにしろ、目の前にいたのだから。
「ふたみちゃん!?」
 これは勇太郎の驚愕を含む声。
「…………」
 兵太に至っては、視界にふたみを捉えた時点で凝結し、絶句していた。
「こんにちは♪」
 美野里は、場の空気も知らず、いつものように無邪気な笑顔であり、
「こ、こんにちは」
 ふたみは、困惑げな顔つきのまま勇太郎と兵太のことを交互に見ている。
「ちょうど良かった! 先輩、お昼ご一緒しませんか?」
 ずい、と大きな唐草文様の包みをかざす美野里。
「そ、そうやね……どうでしょ、勇太郎はん」
「あ、ああ。せっかくだしね……」
「ふたみ、いいよね?」
「う、うん」
「あは♪」
いま、この場を支配しているのは、美野里のハツラツさであろう。思いがけない屋上での邂逅に戸惑う他の三人は、己のペースを取り戻せないまま、彼女の明るさに呑まれていた。


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