〜再会〜-3
平成二十三年三月某日──。
出発を二日後に控えた日曜日の午後、何気に眺めていたテレビ画面に、地震による緊急速報が映し出された。
「なんてこった……」
暫くの間、異動先のある仙台の震災情報をつぶさに見ていると、部長からの呼び出し電話が入った。
「──すまないが、暫くは、吉川君とのコンビを続けてくれないか」
話によれば、仙台支社は社屋が壊滅的な状況だと言うだけでなく、五名もの従業員が行方知れずになってるらしく、現在、情報収集の人手が不足しており、直ちに出社して欲しいとの事である。
「わかりました……」
俺としては何の異存もない。新しい環境に挑め無いのは残念だが、無い物ねだりする程、子供ではない。何より、社員五名の安否を確める方が先だ。
(後三日、地震が遅れて発生してたら、俺も……)
そう思うと、身体に震えが走った──。今迄、特別意識した事も無かった“死”と言う現象を、初めて自身にも起こり得るものだと認識した途端、心の底から猛烈な“生”への執着が涌き上がった。
その時、真っ先に思い浮かんだのが亜紀の姿だ。
(格好悪い奴だよ。俺は……)
会社に呼び出され、慌ただしい一日を終えて帰宅しようと社の駐車場に向う途中、突如、内ポケットの携帯が震え出した。
「なんだ?」
ディスプレイには“亜紀”の二文字──。さっきの、身震いの中で思い浮かんだ件と言い、思わず、見えない力の存在を信じてしまいそうになる。
「もしもし?姉さん」
そんな、俺の独りよがりな解釈とは裏腹に、耳にした亜紀の声は酷く狼狽えていた。
「ああ!……やっと繋がった」
そう言って僅かな沈黙を置いた後、すすり泣く様な声が、俺の耳に届いた。
突然、飛び込んで来た状況が全く把握出来ず、どう対処すれば良いのか解らない。
「どうしたんだよ?姉さん。何故、泣いてるの」
「あ、当たり前じゃないの!昼間からずっと掛けてて……やっと繋がったのに」
「ええッ!?」
亜紀の話では、震災の一報を耳にした直後、俺の安否を知らなくてはと連絡を試みるが、回線は混雑しっ放しで、半日以上も繋がら無かったそうだ。
「何で連絡して来ないの!?お父さんも母さんも、心配してるのよ!」
声を聞いて無事だと知った途端、今度は怒りをぶつけて来るとは。何と、感情の起伏の激しい事だろう。
「姉さん。心配してくれてるのは有難いけどさ。俺、言ったよね?出発は明後日だって」
「えっ?……そうだっけ」
これだよ。目的に向かって一直線なあまり、肝心な部分はすっぽりと抜け落ちている。
「おいおい、しっかりしてくれよ。焦る気持ちは解るけどさ」
「うるさい!連絡して来ないアンタが悪いんじゃないのっ」
自分の、間抜けさを指摘された事が余程恥ずかしかったのか、怒って誤魔化す様は、昔とちっとも変わってない。
──しかし、思いがけず聞く事となった亜紀の声は、無理矢理、消そうとした火種を、知らない内に燻らせていた。