〜再会〜-2
「Overtake goodbye」
「ふぅーーっ!」
ちょうど日付が変わる頃、俺は、ようやく塒(ねぐら)であるアパートに辿り着いた。
意気消沈気味の吉川を、久々の繁華街へ連れ出そうとすると、最初は「そんな気分になれない」と渋っていたので、俺は半ば、強引に引っ張って行った。
(それにしても、ちょっと呑み過ぎだな……)
先ずは、行き付けの居酒屋。そこから二軒目、三軒目と、いわゆる梯子酒となった。
吉川は最初、口数も少なく、運ばれて来た料理や酒を黙々と呑み食いしていたが、アルコールが回り始めた二軒目辺りから元来の明るさが姿を顕し、三軒目に向かう頃には、何時ものアイツらしい饒舌さを取り戻していた。
そこから先は、吉川の独壇場と化した。
急に、留まり木から離れたかと思うと、徐にマイクを握り締め、お世辞にも上手いとは言えない歌声で、カラオケに興じた。
熱唱と相まって、覚束ない足取りで刻む奇妙なステップと、身体を揺すって踊る様は、俺は勿論、店のホステスや他の客をも巻き込んで、笑いと拍手の渦を呼び込んだ。
今迄、何度も吉川と酒を酌み交わしてきたが、あんなに道化る才能が有ったとは、知る由も無かった。
それとも、半ばヤケになっての行動だったのか?
「先輩……」
祭のような馬鹿騒ぎも、三時間程で終演を迎え、俺達は近くのタクシーに転がり込むと、繁華街を後にした。
「どうした?気分でも悪いのか」
「いえ……今日は、ありがとうございました」
「ああ。こっちこそ、無理に誘って悪かったな」
酒を呑んだからって、現実は変わりゃしないんだ。
でも、気晴らし位には成ったと思う。それに、この先、どうするかは吉川自身の問題であって、俺がごちゃごちゃ口を挟む事じゃない。
「おっとっと……」
よろめきながら廊下を進んだ俺は、転がる様にリビングのソファーに倒れ込んだ。
仰向けの姿勢で天井を眺めていると、さっき迄の愉快な感情が急速に醒めて行き、代わって頭の中に、黒い染みの様な“記憶”が甦って来た。
別の感情が涌き起こり、心が強く揺さぶられる。最近、一人になると何時もこうだ。
(情けなねえ……)
頭に思い浮かぶのは、亜紀の姿。離別したあの日から、三年半という月日が流れていた。
──私達……なんで姉弟なんだろうね。
大阪往きの駅のホームで明かされた、亜紀の胸の内。あの時は、「これからは別々の道を歩いて行く。普通の姉弟に戻る事を亜紀は望んでいるんだ」と、自分に強く言い利かせた。
それに、仙台へ異動すれば、暫くは仕事に忙殺されて思い出す暇も無いだろうと、高を括っていた。
しかし、俺が仙台支社に勤務する事は無かった──。