志津絵-11
梅林は何も気づいていないように居間で新聞を読んでいた。
あの声が聞こえないはずはない。
だが、丈太郎からは恐ろしくて何も言えなかった。
「傷は痛むかね」
「い、いえ。大丈夫です」
「何があったか知らんが、もうあんな騒ぎはやめてくれよ。こちらには君を預かった責任がある。君は優秀なんだ、つまらぬことで脳に影響でも出たら大変だ」
「本当にすみませんでした」
と頭を下げた。
あなたの奥さんを抱いてしまいました。すみませんでした、と言う意味もあった。
「さて、私は夜まで仕事をしよう。志津絵」
「はい」
志津絵が台所からやって来た。
「私は仕事をする。手伝ってくれ」
「はい、先生」
志津絵は何もなかったかのように、上品な笑顔で梅林の後について奥の部屋に入って行った。
最初の日に「入るな」と言われた部屋だ。
志津絵が手伝うと言うのは、彼女の裸体でも描いているのだろう。あれだけ若く美しい妻なら、絵心があれば誰でも描きたくなるだろう。
一人で居間にいても仕方がない。
丈太郎は今度こそ、カフェでゆっくり本を読もうと思い本を取りに2階へ上がって行った。
「彼はどうだった。よかったか」
「はい。若くてすぐに固くなりましたわ」
「感じたか」
「はい」
「そうか。もっと彼とのセックスを聞かせてくれ」
「あの人はまだ経験がありませんもの。お話するほどのことはありません。口で一回、私の中で一回」
「若い男のペニスは堪らんだろう」
「強さと言う意味では。でも、私は本当は先生のアレで……」
「お前はいい妻だ。感謝している」
「先生、私こそ」
梅林は志津絵の顔を上に向け、強引なキスをした。
「う……」
たちまち志津絵の体が反応する。
「仕事が先だ。始めようか」
「はい、先生。その代わり」
「わかっている。おまえの好きなようにしてやるからな」
「はい」
志津絵はうっとりと、微笑んでいた。
外は雨だった。三寒四温を繰り返し、雨の日は真冬に戻ったように寒い。志津絵は障子を少し開けて、雨を見た。
細い糸のような雨が、真っ直ぐに落ちている。
「先生、雨です」
「そうだな」
「雨は切ないけれど、私は好きです」
「そうか」
志津絵は帯を解き、着物を脱ぐと襦袢一枚になって梅林の前に立った。梅林は豊満な曲線を手のひらで確認すると、志津絵を後ろ向きにさせた。
微かに聞こえる雨の音を聞きならが、志津絵は目を閉じた。